辰也はこうして父親のお墨付きをもらって暴走族を結成。総長として20~30人のメンバーを束ねることになった。
丈太郎は、息子が暴走族をしていることが嬉しかったようだ。集会の時に、車で乗り付けて見物に来ることがあった。そんな時、丈太郎は部下に対して「こいつが俺の息子だ。族の頭をやっているんだ」と自慢げに語っていたという。
辰也はそんな父親を見て、やはり自分が不良をやっているのを応援してくれているのだろうと思った。いつかはD会の構成員になれる日がくるはずだ。辰也は仕事の合間に事務所へ遊びに行ったり、ドラッグの密売の手伝いをしたりした。
彼は語る。
「親父の周りには常にドラッグがあったよ。家には数キロ単位でいろんなドラッグが隠してあったし、一緒に食事に行くついでに取引をすることもあった。『ちょっと受け取って来るから車で待ってろ』なんて言われて、どこからともなく大量のドラッグを持って来て後部座席にポンと置くとか普通だった。
俺は親父の家に遊びに行ったついでによくドラッグを盗んだ。隠し場所を知ってたんでくすねるんだ。シャブ、マリファナ、コカインなんでもやったよ。親父は気づいていただろうけど、何も言ってこなかった。
背中に墨を彫ったのも16歳の年だね。親父やその周りの人たちもみんな立派なものを入れているじゃん。それを見て俺もやってみたいと思ったのがきっかけだった」
暴走族やドラッグに夢中になっているうちに、辰也は建設の仕事を休みがちになっていった。真面目に汗水流して働くのが馬鹿馬鹿しく思え、暴走族仲間とともに引ったくりや窃盗によって安易に現金を得るようになっていった。
激変した暴力団の環境
辰也は、実父をバックにして怖いもの知らずの日々を送った。
暴走族は、D会の威光を傘にして週末ごとに爆音を轟かせ、目立つ人間を次から次に暴力でねじ伏せて勢力を拡大していく。恐喝や強盗によって金を集め、自分たちでドラッグを楽しむだけでなく、後輩や中学生にまで売りつける。ドラッグは瞬く間に地元の若者たちを汚染していった。
警察が、こうした状況を黙って見逃すわけがない。数カ月にわたって辰也をマークした後に、傷害や強盗など数え切れないくらいの罪状で辰也を逮捕する。家庭裁判所では、犯罪傾向が著しく進んでいるとされ、少年院への送致が決まった。期間も1年7カ月という長さだった。