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 地元出身の親父にしてみたら、それならこれまでの人脈をうまく利用して中古車を右から左に流してビジネスにした方がいいってことだったんだろうね。他の組員たちも大概が中古車や解体の会社をやったり、キャバクラやスナックを経営したりして生計を立てているって聞いている。今時ヤクザをやろうっていう人間は、よほどのバカか、任侠映画にかぶれた奴しかいないよ」

 中学1年で不良の世界に足を踏み入れてから18歳まで、辰也は実父の影響を受け、自分も構成員になることを目指して生きてきた。だが、気がついた時には、暴力団は何一つメリットのない世界になっていたのだ。

グレて道を踏み外したのは、親父のせいじゃない

 辰也は、紹介されたキャバクラで黒服として働いた。途中でドラッグに溺れたり、傷害事件を起こしたりした時期もあったが、なんとか辞めずに店長にまで上りつめた。そして、23歳の時に、一念発起してキャバクラの新店舗を開店させて独立。わずか2年で店を軌道に乗せると、25歳で2号店をオープンするまでになった。目下の目標は、できるだけ早く3号店を出すことだという。

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 彼は実父との関係をこう語る。

「最近はあんまり会ってないな。族をやっていた頃は、いろいろと相談することもあったけど、今は俺も親父もそれぞれ別の事業のオーナーだから、絡むことが少ないんだよ。たまに連絡してビジネスの話を聞くくらいかな。

 親父は一応現役のヤクザだけど、組としての実態はないも同然だと思うよ。ただ、古いつながりがあるから、籍を残して、たまに事務所に顔出してつながりを持っておく程度だ。それでもヤクザの中では、そこそこうまくいった方じゃないかな。親父と同じ年代のヤクザの中にはシャブ中で廃人になったり、自殺したり、ホームレスみたいになったりしてる人間もいるからな」

 少年院を出る時、実父から暴力団に入るのは止めろと言ってもらえたのは幸運だと思っているという。それがなければ今の成功はない。これからも相談相手としてずっと仲良くしていきたいと考えているそうだ。

 最後に辰也は、父親をかばうような言い方をした。

「俺が中学の時にグレて道を踏み外したのは、親父のせいじゃなく、中学が荒れていたせいだと思っている。俺が身を守るために親父を頼ったわけで、親父にそうするように仕向けられたわけじゃない。高校へ行けなかったのは、その後の話だ。もし真面目にやっていれば、親父がヤクザだろうと何だろうとちゃんと生きて行けたはずだ。だから、いろいろとあったことは自分の責任と受け止めて、今は前を向いて生きているよ」

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ヤクザ・チルドレン

石井光太

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