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「この程度の認識だったのか」バラマキ批判の“矢野論文”をめぐり財政再建派と反対派が激突!

なぜ“矢野論文”に市場が反応しないのか?

小林 しかし例えば90年代の不良債権のときは、誰もがその問題を認識しながらも、そこに触れると「マーケットや国民がパニックになる」という理由で多くの官僚は口を噤んでいたわけです。それが官僚として正しい態度だったのか。

 私は、大きな問題が存在し、現状で解決の方法が見出されていない場合は、その問題を国民に明らかにしたうえで、「一緒に解決法を考えましょう」と呼びかけるべきだと思う。その意味で矢野さんの行動は評価されていいのではないでしょうか。

中野 そこで私が考える矢野論文の第二の問題点が出てきます。それは財政を掌る財務次官が官僚としてのタブーを破ってまで「このままでは財政破綻する」というメッセージを発したのに、マーケットがほとんど無反応だった点です。矢野さんのメッセージ通り、日本が本当に財政破綻に向かっているのなら、この論文が出た直後に長期金利が上がってもおかしくないのに、実際には0.1%に満たないままです。要するに、日本は財政破綻に向かっていないということです。矢野さんはご自身の主張の間違いを自ら証明した恰好になったんですよ。

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“矢野論文”を強く批判する中野剛志氏 ©文藝春秋

小林 私はマーケットが反応しない状況だからこそ、このタイミングで論文を出したんだと思います。つまり今はコロナの影響もあり、日本はデフレ下にあり、日銀が国債を買い支える状況が続いている。だから論文が出ても、金利や物価が急に上がる心配はなかったわけです。問題は日銀が買い支えられなくなったときで、このままならいずれその日が来る。だから今、警鐘を鳴らすんだというのが矢野さんの主張ですよね。

中野 なぜ政府債務がこんなに膨らみ続けているのに金利が低いままなのか。小林先生は「デフレ下だから」「日銀が買い支えているから」と説明されました。まさにそういう理由で、日本は財政危機ではないのです。そもそも、日銀が買い支え続けることの何が問題なのか。中央銀行が金利を抑えられるのだから、金利が暴騰することはあり得ないだけの話です。それに、中央銀行は通貨を創造できる存在なので、国債を買い支えられなくなるなんてことは起き得ません。

小林 いや、「今はない」だけです。将来にわたって「絶対に起きない」とは言い切れません。