国債は“将来へのツケ”なのか
小林 私は矢野論文の背景にあるのは、「将来世代にツケを残してはいけない」ということだと思うんです。国債は将来世代からの前借りで、いずれその金は返さなきゃいけない。これまでのように日銀が買い支えられるうちはいいけど、もし将来において例えば制御できないようなインフレが起きたら、将来世代への大きな負担を残すことになる。それは避けたいという矢野さんの思いは否定すべきではないでしょう。
中野 違います。国債は将来の増税で償還しなきゃいけないと思い込んでいるから「将来世代へのツケ」だと誤解するのです。国債の償還は、増税ではなく借換債の発行によって行うべきです。それから、私は制御できないインフレは基本的に「起きない」と考えています。
小林 国債の償還を借換債で出来るなら、国家運営に税は不要という話になり、まったく同意できません。これは後ほど議論しましょう。
中野 矢野論文の三つ目の問題点は、今、私と小林先生の間で議論したようなインフレの問題について、矢野論文はまったく触れていないことです。
小林 そこは端折ってますね。
中野 でも人を説得しようとしているのだから、端折ってはダメでしょう。「財政再建か、積極財政か」の議論は国内外含めて山ほどあったのですよ。この論争に関する積極財政派の主張はだいたい次の三つです。
(1)日本政府は自国通貨を発行し、国債は自国通貨建てなので、財政破綻しようがない。
(2)財政赤字の拡大は金利の高騰を招くことはない。
(3)財政赤字が制御不能なインフレを引き起こす可能性は低い。
小林 非常にわかりやすく整理されていると思います。
MMTの議論を無視
中野 与野党の政治家たちは、こうした論点を踏まえた上で積極財政を唱えているわけです。ですから矢野さんが〈やむにやまれぬ大和魂〉で彼らを批判するなら、先ほどの三つの点に論理的に反論すべきなんです。とくに2019年にMMT(現代貨幣理論)が話題となり、「自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行になることはない」と主張して、大論争になったわけです。ところが矢野論文は、自国通貨建て国債の性格についても、金利についても、インフレについても、反論どころか言及さえしていない。それで、政治家を〈バラマキ合戦〉呼ばわりですから、これは相当レベルの低い議論ですよ。
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「激突!『矢野論文』バラマキか否か 小林慶一郎vs.中野剛志」全文は、文藝春秋「2022年1月号」と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
激突!「矢野論文」バラマキか否か