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「伝統に一石を投じようと思った」8歳の素人少女をジャンヌ・ダルク役に起用…ブリュノ・デュモン監督の“狙い”とは

ブリュノ・デュモン(映画監督)――クローズアップ

2021/12/17
note

――『ジャネット』『ジャンヌ』にはとても個性的な顔や声を持った人々が登場しますが、出演者を選ぶ基準は何でしょうか?

デュモン ステレオタイプに陥らないよう普通の人を選びたい、ということがまずあります。そして映画を撮影するロケ地で育った地元の人、というのも判断基準のひとつです。その土地の風景と、そこで育った地元の人間との間には不思議な調和のようなものがあるんです。ですからロケ地が田舎だった場合、パリ育ちのような人を起用することはありえない。必ず現地で育った人を選びます。

『ジャンヌ』 © 3B Productions

正反対のものを混ぜ合わせることに興味がある

――実際、ジャネット/ジャンヌ役のリーザさんもロケ地の近くで生まれ育ったそうですね。一方で、『ジャネット』『ジャンヌ』のセリフはすべてペギーの原作そのままですし、奇想天外な展開やフィクションの要素も大きいですよね。ドキュメンタリー的に自然をそのまま映すことと、フィクションとして見たことのない物語をつくること、そのバランスについてはどのようにお考えでしょうか。

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デュモン おっしゃるとおり、とても矛盾した考えではあるんです。ただこの2つの映画にはとても詩的な面がありますよね。非現実的な部分があり、奇想天外なファンタジーがある。そうしたファンタジックな部分と、自然でリアルなものという正反対のものを混ぜ合わせることに興味があるんです。同時録音を使い、演技未経験者を起用するような自然派っぽいスタイルと、ペギーが推敲に推敲を重ねてつくったであろう抒情的で詩的なセリフ、そして振り付けのような非常に人工的なものとを衝突させたかったのです。

『ジャネット』 © 3B Productions

――同時録音を採用したのは、彼らの自然な声を録りたかったからですか。

デュモン 私が撮影時に捉えたいと思っているのは、まさに脆弱さなんです。音に関しても同じです。リーザを始めプロではない出演者の歌声は拙い部分が多い。でもそうした初歩的な声をこそ大事にしたいと思い、ミュージカル部分ではアカペラで歌ってもらいすべて同時録音をしました。美しく加工したりはしません。決して完璧さは求めていないんです。特にジャンヌ・ダルクはかなりステレオタイプ化された人物ですから、欠点や短所を与えることによってより人間的な人物に作りあげたかったのです。