ジャンヌ・ダルク。15世紀初頭のフランスで祖国を救うために立ち上がった英雄であり、19歳の若さで処刑された悲劇の人物でもある彼女の物語は、これまで数々の映画監督や俳優を魅了してきた。
この物語に新たに挑んだのは、フランスの鬼才ブリュノ・デュモン。彼がシャルル・ペギーの劇作を原作に作りあげた『ジャネット』『ジャンヌ』(12月11日同時公開)では、撮影開始時は8歳だった少女が主演、デスメタルなどの音楽を用いつつ、俳優たちがアカペラで歌い踊るミュージカル形式という大胆な形式が採用された。斬新なジャンヌの物語はフランス国内で大反響を呼び、カルト映画の巨匠ジョン・ウォーターズにも絶賛された。
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2部作にするつもりはなかった
――『ジャネット』と『ジャンヌ』はスタイルや作風はまったく異なるように思いましたが、もともと2部作として構想されていたのでしょうか。
デュモン 2部作にするつもりはまったくありませんでした。おっしゃるように2作の作風は大きく異なります。神のお告げを聞く幼年期を描いた『ジャネット』は歌中心の映画でしたが、戦いに参加し異端審問にかけられるまでを描いた『ジャンヌ』は歌よりも会話がメインになります。
『ジャネット』の反響がよく作品の出来に自分自身満足していたので、もう一作品つくってみようと『ジャンヌ』を構想し始めたのですが、最初は『ジャネット』で成長した15歳のジャンヌ役を演じたジャンヌ・ヴォワザンに主演をお願いするべきだと思いました。ただ2作目では馬に乗るシーンがたくさん登場したり、髪をとても短く刈らなければいけないとわかり、彼女は少し躊躇していたようです。
そこで私は前作で幼年期を演じたリーズ・ルプラ・プリュドムに再びジャンヌ役を演じてもらおうと決めました。いささか奇想天外なアイディアだったかもしれないけれど、リーズ自身8歳から10歳になりそれなりに成長もしていたので、今は彼女に決めてよかったと思っています。
――2作の間で音楽や振り付け家をはじめスタッフが一新されているのも、これがシリーズとして構想されていたわけではなかったからですか。
デュモン ええ、2作の間で継続性を持たせる気持ちもまるでなく、むしろはっきりとした分断があることを望んでいました。音楽も違う、振り付けも違う。『ジャネット』はどちらかというとエレクトロニコアのような雰囲気ですが、『ジャンヌ』の音楽はシンガーであり作曲家でもあるクリストフにお願いしました。
彼はフランスでとても人気のあるミュージシャンで、その曲はとてもメロディアスで大好きです。『ジャンヌ』では前作よりも会話が増え、歌のシーンは大事な部分だけに絞られています。リーザは歌のプロではないですから、今回は素晴らしいシンガーであるクリストフに主な歌唱シーンを任せたわけです。