類を見ないほど神話的な人物
――『ジャンヌ』では聖職者たちを集めた教会での異端審問がメインになります。聖職者たちはみな物々しい様子ですがどこか滑稽で、とても挑発的な描写に思えました。あのような描き方がカトリック教会からの反発を招くことはなかったのでしょうか?
デュモン いいえ、そういうことはいっさいありませんでした。聖職者たちを演じたのは、クリストフ以外はみな、実際の神父や大学で文学などを教える教授たちです。彼らは完璧な演技をしてくれるわけではありませんが、むしろ彼らが持つ普通っぽさや弱さが、私の映画には必要だったのです。
――彼ら自身が持っている性質が『ジャンヌ』の物語に真実をもたらす、ということですか。
デュモン 大学教授たちを選んだのは自然な流れでした。あそこでみなさんが語っているセリフはどれもペギーの戯曲からの引用であり、その少し現実離れしたセリフを完璧にコントロールできる知識階級の人が必要だったのです。素人でありながら、ペギーの詩的な文章には馴染みがある、そういう人たちを選びました。実際の聖職者を起用したのも同じ理由です。
――あなたをはじめ、ジャンヌ・ダルクの物語はこれまで多くの映画作家を魅了してきました。この人物および物語が映画作家たちを惹きつける理由は何なのでしょうか。
デュモン ジャンヌが他に類を見ないほど神話的な人物だからでしょうね。彼女は神から使命を受けながら、国王に民衆を救うことを求めた。スピリチュアルな世界と現世社会との繋がりを同時に持っていたわけです。そして庶民出身の彼女が特別な人物になっていく物語には、人間が持つ欲望や憧れが全部詰まっている。しかも非常に悲劇的な結末を迎えます。そういう壮大で神話的な物語が今も多くの人々を惹きつけるのだと思います。
――この物語はたしかに悲劇ですが、映画には非常に奇抜なユーモアが感じられました。
デュモン 人間存在そのものが、悲劇的なものとグロテスクなものとを、両方持ち合わせているものですよね。もし一方しか持ち合わせていなかったら、その人は非人間的存在です。悲劇を創生するのがグロテスクさであり、一方でそのグロテスクさはユーモアと強く関係しているのです。
INFORMATION
『ジャネット』『ジャンヌ』
12月11日(土)より、渋谷ユーロスペースほか2作同時公開
配給:ユーロスペース
https://jeannette-jeanne.com/