学校側へは、「空き教室をスタディルームという共同学習スペースとして使わせてほしい」「改めて3年生全体を対象に進学説明会を開かせてほしい」と願い出た。両方とも承認が下り、説明会で「この話を聞いて大学進学したいと1ミリでも思った人は明日の放課後、スタディルームに集まってね」と3年生116名に呼びかけた。職員室では「うちの学校で放課後に残って勉強する子なんていませんよ」と釘をさされる。ところが、コースや学力も異なる子たちが30名程度集まり、進学指導が始まった。
過去問を教材にした小論文指導
狙うは、専門高校推薦を中心とした学校推薦型選抜だ。書類審査、面接、小論文、グループディスカッションなどが課されるが、なかでも小論文は、学部、学科ごとの専門性と論理的思考力が試される。扱われる社会問題は多岐にわたり、小論文入試対策書として人気がある本シリーズ『◯◯年の論点100』の内容のように、大人たちでも答えることが難しいテーマについての要約・意見論述が求められる。しかし最も重要なことは、知識と知識をぎ合わせて活用する能力で、完璧な解決策など求められていないし、そこに「正解」などない。
「小論文をどのように指導されていますか」という質問をよく受けるが、私は全国の大学で過去に出題された小論文を活用している。社会問題を理解するために有効な小論文を、生徒たちの志望校にこだわらずに選定する。過去問を教材に指導するのは、本や新聞記事から引用された課題文を理解することでおのずと様々な出題に対応できるようになるからだ。以前は参考書をもとに、事前に社会問題を解説する指導もしたが、過去問を用いてアウトプットを想定した学びとは、効果が大きく異なると実感している。
昨年度は、入試当日までに70問程度の小論文の解説、添削、ディスカッションを行った。まず夏休み前までは、週に1回の進学講座を60分程度行う。小論文を書き終えると生徒が添削を受けに来る。教える側として重要なのは、初めのうちは訂正しすぎず、「褒めポイント」を探すこと。とにかく続けることが大事で、初めから真っ赤に染まった原稿用紙が返却されるだけでは、次へのモチベーションは保てない。一定期間、文章の読み書きを繰り返せば、誰でも自然と力がつく。添削では「よくこの事例を見つけたね!」「とてもいい工夫だ!」と伝え、その後に1カ所だけ「次はここをこうしてみようか!」くらいがちょうどよい。