2020年、新型コロナ・ウイルスが世界を大混乱に陥れた。ロックダウン、現金給付やmRNAワクチンといった手段を次々と投入することで、日常を取り戻すための道が開けつつあるように見える。だが、ここでの悪いニュースは、コロナ禍は最後の危機ではないということだ。むしろ、これは終わりのない危機の始まりである。それが気候危機だ。
気候危機は、コロナ禍に似ている。人類の経済活動が拡張を続け、その影響が地球全体を覆うようになった時代を「人新世(ひとしんせい)」と呼ぶが、人類が奥地の森林を切り開いて農地にしたり、野生動物の売買を繰り返したりする中で、未知のウイルスが社会に入り込むリスクは高まっていった。
同じように、人類が化石燃料を掘り返し、大量の二酸化炭素を大気に放出しながら、グローバル資本主義のもとで商品を生産、運搬、消費し、廃棄するなかで、気候危機も深まっている。
その限りで、パンデミックも気候変動も資本主義がもたらした人新世の危機である。当然、危機のリスクを科学者たちは警告していた。にもかかわらず、警告は無視された。目先の利益が優先されたのだ。
気候危機には「ワクチンや治療薬がない」
とはいえ、両者の間には違いもある。気候危機には一発で効くワクチンや治療薬が存在しない。つまり、数週間から、長くても数か月であったコロナ禍の緊急事態とは異なり、気候危機は慢性的緊急事態を引き起こす。山火事、干ばつ、洪水、台風など形は多様で、その影響で引き起こされる食糧危機や水不足は難民問題や武力衝突にがるだろう。その犠牲となるのは、いつも社会的弱者だ。
今、行き過ぎた環境破壊や経済格差を是正する必要があるという議論が高まって、ESG投資やSDGsが注目を集めているのは偶然ではない。だが、果たして、危機はそれで解決するだろうか?