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2022年の論点

2021/12/27

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル, 国際, 経済

「脱成長」とは何か

 脱成長が目指すのは、「経済成長」ではない、もっと別の形の「発展」だ。清貧の思想ではない。むしろ、こう問うべきだ。私たちはもう十分豊かなのに、さらなる経済成長を求めすぎて、逆に不幸になっているのではないか、と。

 仮に技術の飛躍的発展によって、今の社会が持続可能になったとしても、資本主義が無限の経済成長を目指すなら、長時間労働、消費を煽る広告、アップルなどに代表される計画的陳腐化は蔓延し続けるだろう。そして、私たちは毎日、住宅ローンを返済するために、満員電車に揺られて通勤し、終わらない競争に勝ち続けなければならない。

 その結果、家族や友人との時間、スポーツや趣味のための時間はなくなってしまう。子育てや家事、介護の負担は女性に押し付けられる。みなが、自分が本当はやりたいことを我慢しなければならない。人生の意味を見出せず、ストレスを抱え、心身の健康を害している。

経済成長し続けることが孕む「暴力性」

 こうして浮かび上がってくるのは、無限の経済成長が孕む暴力性や抑圧だ。それに対して「脱成長」という提案は、より持続可能で幸福な社会の実現を目指す。

 例えば、格差是正のために炭素税や富裕税が必要だ。さらに、労働時間を短縮することで、家事や育児の分担を促進し、趣味の時間を増やしたらどうか。ガソリン車を電気自動車によって置き換えるだけでなく、道路を歩行者や自転車のために開放しよう。タワマンの代わりに公園や広場といった公共空間を増やすべきだ。金融市場やファストファッション、工業的畜産に対しては厳しい規制をかける。

 つまり、脱成長は資本主義の論理に根本から挑むプロジェクトである。気候危機対策に残された時間はほんのわずかになるなかで、そのような無謀な道を選ぶべきなのか、疑問に思うかもしれない。だが、コロナ禍は、これまで不可能だと言われてきた策を実施することが可能であることを示した。そう、不可能が現実化したのだ。だとすれば、不可逆的な気候危機の分岐点を前にして、コロナ禍の時よりももっと大胆な対策を私たちは求めるべきなのである。

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斎藤幸平(さいとう・こうへい)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、ドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。2021年、『人新世の「資本論」』で新書大賞を受賞。編著に『未来への大分岐』など。

人新世の「資本論」 (集英社新書)

斎藤 幸平

集英社

2020年9月17日 発売

◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。

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