すると、その神戸山口組が勢力を増していく中、同組内でも分裂騒動が持ち上がる。若頭代行だった織田絆誠らが2017年4月、「任団体山口組」(現・絆会)を旗揚げした。原因はまたもやカネだった。当時、警察庁で組織犯罪対策を担当していた幹部は、苦々しげにつぶやいた。
「6代目の分裂もカネの問題だった。神戸もやはりカネ」
始まりも終わりも高山
三つ巴の膠着状態が続く中、2019年10月に刑期満了となった高山が出所したのを契機に、潮目が変わった。
神戸山口組幹部が翌月、尼崎市で自動小銃を乱射されて殺害されるという残忍な事件が発生。10月には神戸市で山健組系組員2人が同時に射殺される事件も起きた。6代目山口組は高山の服役をきっかけに分裂し、高山の出所前後に神戸山口組幹部への襲撃事件が続発。高山の動向によって抗争の帰趨が左右されているのは間違いなかった。
2020年になると神戸山口組を脱退する組織や引退を表明する最高幹部が相次いだ。5代目山健組組長、中田浩司名義で挨拶状が関係各所に送られたのは8月のことだった。
「諸般の事情に鑑み神戸山口組を脱退いたす事を決意致しました」
そして2021年9月、さらに驚愕の情報がもたらされた。山健組が6代目山口組へと復帰したのだ。高山は「山健の名跡を残したい」と述べていたという。
国内最大の暴力団の分裂騒動は最終局面へ
2020年末時点で6代目山口組の組員は約3800人、神戸山口組は約1200人。山健組の離脱で神戸山口組側の勢力縮小は決定的となった。法規制の強化だけでなくコロナ禍でシノギも厳しい。神戸山口組を率いる井上邦雄は元々、山健組の組長だっただけに打撃は大きい。
山一抗争終結の前例に倣って、井上が組織を解散して6代目に詫びを入れるかどうかは不明だが、国内最大の暴力団の分裂騒動は最終局面を迎えたといっても過言ではない。(文中敬称略)
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。