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「ひかり」「大陸」「あじあ」——満洲を代表する豪華列車の写真も続々

 この「のぞみ」の撮影者は相当な乗り物好きだったのか、当時は貴重だったはずのカメラとフィルムで、列車やバスばかりを惜しげもなく写している。一緒に保管されていたその他の写真には、奉天滞在時に撮影したらしい他の豪華客車や、車庫で休む巨大な蒸気機関車、さらに奉天市内を走る路面電車、乗り合いバス、人力車なども含まれている。

 だが、人物を写した観光記念スナップのようなカットは、一緒に保存されていた写真の束の中に1葉もないのだ。撮影者はいったい、どんな人だったのだろう。

奉天郊外を走る急行「大陸」。釜山~奉天~北京間約2000キロを走破する、日本の鉄道史上最長距離列車だった【★】

「のぞみ」の姉妹列車だった「ひかり」や、釜山から満洲経由で中華民国の北京まで直通していた国際急行「大陸」は、奉天郊外と思われる線路際で走り去る姿をとらえている。満鉄(南満洲鉄道)を代表する高速特急「あじあ」は、駅で停車中に近づいて撮ったり、自分が乗っている展望車からすれ違いざまに撮影したりもしている。

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奉天郊外を走る急行「ひかり」【★】
奉天駅に停車する特急「あじあ」(当時の絵はがきより【★】)

「あじあ」「ひかり」「のぞみ」「大陸」は、いずれも、昭和初期の満洲で大勢の旅客を運んだ看板列車だった。今は歴史の彼方に消え去り、とりわけその姿さえはっきりしなかった「のぞみ」展望車の写真が残っていたことは、新幹線にその名を戴く日本の近代交通史の大きな空白を埋めてくれるものである。今は名もわからぬ撮影者、そしてこれらの写真を長く保管し続けてくれた今は亡き引揚者とそのご遺族に、心から敬意と感謝を表したい。

「あじあ」の展望車を正面から撮影。駅で線路上に出て撮ったのだろうか
奉天駅に到着した特急「あじあ」。先頭のSLは流線型の高速SL「パシナ」。カタカナで「パシナ」のネームプレートを掲げているのが見える

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「のぞみ」「ひかり」「あじあ」「大陸」など当時の豪華列車に関する詳しい解説やその他の写真資料については、『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』(扶桑社。12月17日発売)をご覧ください。なお、★印の写真は『改訂新版 大日本帝国の海外鉄道』(扶桑社)に収録されている写真です。

改訂新版 大日本帝国の海外鉄道

小牟田 哲彦

扶桑社

2021年12月17日 発売

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