彼らが撮っていたものは
カッシィー。
「…っべーな、マジ伝説だろこれ…」
「半端ないっすね… いや、マジスゴすぎますよ…」
カッシィー。
「本物の伝説だわ、これは…」
カッシィー。
「お前らこれ絶対語り継いでいけよ」
カッシィー、カッシィー。
2階に上がっていったメンバーがそれぞれ独り言を漏らすようにブツブツと喋り、歩き回っている。異常なのは百も承知だが、彼にはどうしてもそう聞こえた。
カッシィー、カッシィー。
そして、彼らは何かを撮っている。
それに気づいたとき、この状況に一気に背筋が凍り、彼は病室まで駆け出した。
「みんなマジ何やってんです――」
病室の中で見たものは、想像よりはるかに常軌を逸していた。
Tが首を吊っていたのだ。
2階に上がったメンバーは歩いていた足を止め、携帯カメラを掲げたままの姿勢で、駆け込んできた後輩の方をボーッと見つめていた。
カッシィー。
「な……なにやってるんすかァーーーー!!」
後輩の絶叫で、一同はフッと我に返った。
「え、いや、お前こそ何してんのここ――」
「うわ、うわぁああーー!」
「ちょっと、T、おい!!」
「何、やってんだお前!! そこの椅子持ってこい!!」
「俺ら抱えるから早くそれはずせ!!」
死後40分以上は経っていた……
Tの首に巻かれたベルトを外し、ぐったりと横たわるその体を抱えながら、彼の同期たちは呆然と涙を流していたそうだ。
慌てた後輩たちも涙ながらに救急車を呼び、数十分後には隊員たちが駆けつけた。
外に出るように言われ、ボーッとしたまま廃病院の外で待っていると、次々と警察のパトカーまでやってきた。
そして、Tの死が一同に伝えられた。死後40分以上は経っており、どうやら同期の2人が2階に上がっていった時点で亡くなっていたようだった。
その後、一同は当然警察に問い詰められたが、2階に上がって後輩に声をかけられるまでの記憶がないこと、そもそも彼を殺める動機がまるでないことなどが明らかになり、結局Tの死は突発的な自殺という形に落ち着いた。
しばらくして、その病院は何事もなかったかのように取り壊され、更地になった。
だが、その地元の不良たちの一部には、2階に上がれない廃病院があったこと、そして、Tの怪死事件が今も伝わっているそうである。
Tは、本当に“伝説”になってしまったのだ。
(文=TND幽介〈A4studio〉)