北九州に住む書店員であるかぁなっき氏は、映画ライターの加藤よしき氏とともに結成した猟奇ユニット、“FEAR飯”の語り手担当だ。かぁなっき氏は膨大な実話怪談のアーカイブを擁し、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで「禍話」という怪談チャンネルを続けてきた。

 今回は、「禍話」の中から「伝説の男」をお届けする。不気味な噂の残る廃病院に行った不良グループが体験した、おぞましい一夜の出来事とは――。(全2回の2回目/#1を読む)

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突如消えたTの気配

「お前らマジで見とけよ!! 俺が伝説作るんだからな!!」

 こちらを振り返らず、一人叫びながら一歩一歩階段を上がっていく。

「……オラァ!!」

 最後の一段を勢いで駆け上がったTは、ついに2階に到達。興奮状態のまま2階の廊下に駆け出していってしまった。

 残された一同は彼の蛮勇にあっけにとられつつも、ある種の感動を抱いていた。

……しかし、それも束の間。Tの気配が突如消えたのである。

 叫ぶTの声がフッと途絶え、一同は消えたTをいぶかしみながら不思議とその場を動けず、誰一人として声を出していなかった。

 自分の耳が聞こえなくなったのではと錯覚するくらいの静寂。

 ブーッブーッブーッ!!

 デレレデンデレレンレレン!!

 ピリリ! ピリリ!

「うおっ! びっくりした!!  なんだよマジでぇ!!」

「ウルセェだろうがヨォ!!」

「いや、先輩のケータイも鳴ってますって!!」

「え、俺のも鳴ってんだけど」

 静寂を破ったのは一斉に鳴り響いた一同の携帯の着信音だった。携帯を開くと、全員に一通のメールが届いている。

《デンセツ達成!!!!!》

 そう書かれた一文の差出人はTだった。

 一同は思わず顔を見合わせ、同期たちは「マジですげぇな……」とかすかに笑みを漏らした。

 だが、Tは戻ってこなかった。

 5分、10分、15分。

 Tのメールで高揚した気持ちは冷め、一同の心には言い知れぬ不安が満ち始めていた。

「あの、電話しましょうか俺、Tさんに?」

「あ? ああ、じゃあ、頼むわ」

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。

ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。

 何度かけてもTは出なかった。それどころか、2階の奥から着信音すら聞こえないのだ。全員の心に、こりゃなんかあったぞ……という予感が湧き上がる。