北九州に住む書店員であるかぁなっき氏は、映画ライターの加藤よしき氏とともに結成した猟奇ユニット、“FEAR飯”の語り手担当だ。かぁなっき氏は膨大な実話怪談のアーカイブを擁し、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで「禍話」という怪談チャンネルを続けてきた。
今回は、「禍話」の中から「伝説の男」をお届けする。不気味な噂の残る廃病院に行った不良グループが体験した、おぞましい一夜の出来事とは――。(全2回の2回目/#1を読む)
◆ ◆ ◆
突如消えたTの気配
「お前らマジで見とけよ!! 俺が伝説作るんだからな!!」
こちらを振り返らず、一人叫びながら一歩一歩階段を上がっていく。
「……オラァ!!」
最後の一段を勢いで駆け上がったTは、ついに2階に到達。興奮状態のまま2階の廊下に駆け出していってしまった。
残された一同は彼の蛮勇にあっけにとられつつも、ある種の感動を抱いていた。
……しかし、それも束の間。Tの気配が突如消えたのである。
叫ぶTの声がフッと途絶え、一同は消えたTをいぶかしみながら不思議とその場を動けず、誰一人として声を出していなかった。
自分の耳が聞こえなくなったのではと錯覚するくらいの静寂。
ブーッブーッブーッ!!
デレレデンデレレンレレン!!
ピリリ! ピリリ!
「うおっ! びっくりした!! なんだよマジでぇ!!」
「ウルセェだろうがヨォ!!」
「いや、先輩のケータイも鳴ってますって!!」
「え、俺のも鳴ってんだけど」
静寂を破ったのは一斉に鳴り響いた一同の携帯の着信音だった。携帯を開くと、全員に一通のメールが届いている。
《デンセツ達成!!!!!》
そう書かれた一文の差出人はTだった。
一同は思わず顔を見合わせ、同期たちは「マジですげぇな……」とかすかに笑みを漏らした。
だが、Tは戻ってこなかった。
5分、10分、15分。
Tのメールで高揚した気持ちは冷め、一同の心には言い知れぬ不安が満ち始めていた。
「あの、電話しましょうか俺、Tさんに?」
「あ? ああ、じゃあ、頼むわ」
ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。
ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。
ピリリリ、ピリリリ、ピリリリ。
何度かけてもTは出なかった。それどころか、2階の奥から着信音すら聞こえないのだ。全員の心に、こりゃなんかあったぞ……という予感が湧き上がる。