北九州に住む書店員であるかぁなっき氏は、大学時代の後輩であり映画ライターの加藤よしき氏とともに結成した猟奇ユニット、“FEAR飯”の語り手担当。かぁなっき氏は現在も収集中の膨大な実話怪談のアーカイブを擁し、2016年からライブ配信サービスTwitCastingで「禍話」という怪談チャンネルを続けてきた。
まるで飲み屋でお酒を酌み交わしているようなポップな語り口とは裏腹に、語られる怪談は“禍々しさ”に満ちており、有料ライブ中には怪現象も頻発。そんなリスナーを掴んで離さない勢いは止まるところを知らず、2021年10月には、明治24年から刊行されている文芸雑誌『早稲田文学』に随筆を寄稿した。
今回は、そんな「禍話」の中から「伝説の男」をお届けする。不気味な噂の残る廃病院に行った不良グループが体験した、おぞましい一夜の出来事とは――。(全2回の1回目/#2を読む)
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“2階から上に誰も行けない”廃病院
この話はかぁなっき氏が大学院時代に、いろいろとやんちゃをしていた知り合いのY氏から聞いた話だそうだ。
今から数十年前。福岡県の筑豊近辺にとある廃病院があった。別段「不可解な人死にが出た」というような逸話があるわけでもない、ただの廃病院だったそうだが、少々気になることもあったという。
それは、病院内に診察や治療用の機材や道具類があらかた残っていたという点である。経営困難となればカネになりそうな機材などは回収しそうなものだが、そんな様子はなく、まるで医師と看護師が揃って夜逃げでもしたかのような有様で放置されていたそうだ。
当然、そんな状態での廃業となれば周囲の目も自然と集まるわけで、いつしかその廃病院には不気味な噂が立ち、肝試しに訪れる者も少なくなかった。だが、その噂がまた奇妙だった。写真が撮れなくなる、怪音を聞いた、人影を見た……そんな廃墟にありがちな内容ではなく、単にーー
“2階から上に誰も行けない”
というのだ。
建物が倒壊して行く手を阻んでいる、床が経年劣化で崩壊してしまっている……自然に考えればこうした理由が浮かぶだろうが、そういう類のものではなく「どうしても無理」なのだそうだ。
かぁなっき氏にこの話を語ってくれたY氏が耳にしたところによると、“1階の階段の踊り場辺りから空気が一変する”、“寒気が走って体が重くなる”、“胸が詰まるように苦しくなる”、“霊感のある人は絶対に近寄らない”のだという。
「とにかく本能が“ここから先には行くな”って言っているような感じがするんだって」