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明らかに外とは違う空気が立ち込めていた

 月明かりと手に持つ携帯ライトだけが反射する、ツルツルとした病院の床を一歩一歩踏みしめる彼らの足取りは、直前まで酒で高揚していたとは思えないほど重くなっていった。

 非常灯すら点いていない病院というのは、これほど心もとないものなのか……。

 まだ目的の2階にすらたどり着いていないのに、明らかに外とは違う空気が病院の1階には立ち込めていた。

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「……ちょっと待って、ここじゃね?」

 Tの同期が、手すりが途切れてぽっかりと暗い口を開ける階段への入り口を見つけた。

「階段ってここだけだよな?」

「多分、そうっすね……」

みんながいるのに、自分だけ廃墟に取り残されているような

 ゆっくりとその暗闇に身を沈める一行の後頭部あたりを、スッと冷たい感覚が通り抜けた。

“ここはやばい”。2階の病室までの道案内が記された階段を見つめ、一同はその場に立ち尽くしてしまった。

 それまでも充分重かった空気が、ここは格段に重い。そばにみんながいるのに、自分だけ廃墟に取り残されているような、思わず駆け出して助けを求めたくなるような、そんな焦燥感と恐怖に駆られる異様な空気がそこにはあった。

「チッ!」

 舌打ちとともにTが先陣を切って階段に踏み出し、我に返った残りのメンバーも慌て気味に後に続いた。だが、数歩もしないうちに2階に通じる踊り場から先に進めなくなった。

 噂通り、足が前に出なかったのだ。

「……ど、どういうことっすか、これ?」

「……しらねーよ、俺だって」

 空気の密度が違うのだ。磁石同士が反発しているときのような、その空間には何もないのに何かが邪魔をしているような、そんな猛烈な気配で足が出ないのだそうだ。

 スゥー… スゥー… スゥー…。

 辺りには一同の荒い呼吸だけが響いている。無理してここに突っ込めば、今ここで気を張ってしているこの呼吸さえ、締め付けられるように止まってしまいそうだ。

「おい! ビール持ってきたよな!!」

 Tはそう叫ぶと、後輩たちが手にしていたビニール袋から缶ビールを乱暴に取り出し、ブシュッと開けるやその場でガブ飲みし、空き缶を投げ捨てた。

「確かに妙な感じはするけどそれだけだろうが! 伝説作りに来たんだろうが!! なぁ!?」

 彼は一同を怒鳴りつけたが、T以外のメンバーは頷くばかりで後に続こうとする者はいなかった。それを見たTは、再び「チッ!」と舌打ちをすると、一人意を決したように2階への階段を上がっていった。

【続きを読む】「お前らマジで見とけよ! 俺が伝説作るんだからな!」 なぜか“2階に上がれない”廃病院でヤンキー達がみた戦慄の光景