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「日本に軍事的警戒を緩めてはいけない」「価値を共有する隣人として…」“正反対の男たち”による韓国大統領選挙の行方

「日本に軍事的警戒を緩めてはいけない」「価値を共有する隣人として…」“正反対の男たち”による韓国大統領選挙の行方

2021/12/27

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 国際, 政治

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政権の“闇”への追及で運命が変わった男

 保守陣営「国民の力」の尹錫悦候補は、私立名門大学の著名な教授を父親に持つ上流層出身だ。1960年ソウル生まれで、韓国最高のエリートを輩出するソウル大学法学部を卒業。酒や友達付き合いが好きな外向的な性格のため、九回目でやっと司法試験に合格して検事の道へ進んだが、卓越した捜査能力で特捜部検事として大活躍し、高速昇進を繰り返した。

 朴槿恵政権初期の2013年、2012年の大統領選挙当時の国家情報院(国情院)世論操作事件の特別捜査チーム長に任命されたことで運命が変わる。政権としては蓋をしたい不正選挙事件に対して、積極的な捜査を展開したせいで捜査メンバーから外され、地方へ飛ばされる。

尹錫悦氏 ©AFLO

 2016年10月、朴槿恵大統領の国政壟断(ろうだん)スキャンダルが明るみに出ると、再び人生が大きく変わる。朴英洙(パク・ヨンス)特検によって特検捜査チーム長に抜擢されて華やかに復活したのだ。文在寅政権でソウル中央地検長から検察総長まで上り詰める。

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 しかし、2019~20年の文大統領の最側近である曹国(チョ・グク)元法務部長官の不正捜査を機に、文在寅政権と対立することで、再び、政権から追い出される羽目となる。結局、検察総長職を途中辞退し、2021年6月に政治参加を宣言した。

 尹氏は、正統派保守主義者として「持続可能な成長」を経済政策の最優先課題としており、規制打破や労働市場の柔軟化など新自由主義的な市場経済を目指す。

 最大の強みは、最高権力者の文在寅政権に対抗して「法治主義」を守り抜いたという象徴性だ。文在寅政権によって韓国社会の「公正」や「正義」が崩れたと感じる多くの韓国国民が、尹氏の言動にカタルシスを感じている。ただ、政治経験が全くなく、政治的力量が疑問視されるという点や、独自の政策を提示できていない点が弱点として指摘されている。