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読者を旅へといざなう“松本清張ならでは”の小説描写…乗り鉄が語り尽くした清張作品のスゴさとは

『清張鉄道1万3500キロ』より #1

2022/01/04

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書,

 松本清張といえば言わずとしれた現代ミステリ小説の大家であり、『点と線』『張込み』などいわゆる「時刻表トリック」を多用した「トラベルミステリー」作品の開祖といわれることもある。しかし、JR全線を乗破した「乗り鉄」の元記者・赤塚隆二氏は、清張作品の魅力は“ミステリー”だけでなく、“トラベル”の面にもあると語る。

 ここでは同氏の著書『清張鉄道1万3500キロ』(文藝春秋)より一部を抜粋。松本清張作品の多様な魅力について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

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旅への誘い

 「社会派ミステリー作家・松本清張」の登場を予告する重要な作品が登場する。刑事が容疑者を追う筋立ての第1号『張込み』である。55(昭和30)年12月の「小説新潮」に載った。

 警視庁は、強盗殺人容疑者の石井久一が、故郷の山口県か、昔の恋人さだ子が後妻として嫁いだ九州のS市か、いずれかに立ち回ると見て、二刑事を西へ向かう列車に乗せる。

柚木刑事と下岡刑事とは、横浜から下りに乗った。東京駅から乗車しなかったのは、万一、顔見知りの新聞社の者の眼につくと拙いからであった。列車は横浜を二十一時三十分に出る

松本清張 ©️文藝春秋

 柚木はS市へ行き、下岡は山口県に向かう。車中の様子や車窓が詳しく書かれる。

 汽車に乗り込んでみると、諦めていた通り、三等車には座席が無く、しかもかなりの混みようである。二人は通路に新聞紙を敷いて尻を下ろして一夜を明したが眠れるものではなかった。

 京都で下岡がやっと座席にありつき、大阪で柚木が腰をかけることが出来た

 柚木は、岡山や尾道の駅名を夢うつつのうちに聞いたように思ったが、はっきり眼がさめたのは、広島あたりからだった

 岩国で駅弁を買い、昼食とも夕食ともつかぬ飯を食った

 小郡という寂しい駅で下岡は下りた。彼はここで支線に乗り換えて、別の小さい町に行くのだった

 柚木はこれから九州に向うのである。門司に渡って、さらに三時間乗りつがねばならない

 夜遅くS市に着き、柚木は駅前の旅館で寝た