このムックをお読みの方には、BTSについて詳しくない人も多いだろう。ただ、こういう但し書きを付けたら、その凄みが実感できるはずだ――「1963年の坂本九『Sukiyaki』(上を向いて歩こう)以来、アジア出身の非英語圏歌手として、57年ぶりに米国ビルボード1位を獲得」。
音楽評論家として私が注目するのは、彼らの音の斬新さである。とりわけ米国ビルボードの1位を獲得した、2020年の『Dynamite』と21年『Butter』という2曲は、音楽面での斬新さが、ヒットへの最大のキードライバーとなったと考える。そこで今回は、この2曲の音作りの共通点とその魅力について、本ムックの読者(55歳の私と近しい年代を想定)にも分かるように解説したい。
サブスクの浸透によって曲の長さが変わった
まず、この2曲をサブスクリプションで聴く前、スマホに映る音楽プレーヤーの画面を見た瞬間に驚くのが、曲の短さである。私が使っている Apple Music だと『Dynamite』が3分19秒、『Butter』は何と2分44秒を示す。
サブスクの浸透が、音楽の聴き方をがらっと変えた。CDをトレイに載せて、じっくりと味わう音楽から、日がな、ずっと流しっぱなしにするライトで無意識的な聴き方へ。
必然的に、曲の長さも変わってくる。特に平成の日本では、ヒット曲の「長尺化」が進んだのだが、最近のライトな聴き(流し)方には、3分前後の「短尺」な曲が合っていると思われ、BTSはそんなニーズ動向に照準を合わせていると思われる(一曲30秒以上の聴取を「1再生」としてロイヤリティを支払う、サブスク特有のビジネスモデルも影響しているだろう)。