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最もシンプルでベタな「ディスコ」のリズムを多用

 次にリズムである。機会があれば、インストゥルメンタル版の『Dynamite』と『Butter』を聴いていただきたい(サブスクに入っている)。思わず腰が動く感じを受けると思う。それはリズムパターンに秘密がある。

 音楽用語でいう「4つ打ち」のリズムが使われているのだ。具体的に言えば、バスドラム(大太鼓)が「♪ドン・ドン・ドン・ドン」と四分音符を打ち続ける。これ、つまりは最もシンプルでベタな「ディスコ」のリズムで、80年前後に、洋楽邦楽の「通奏低音リズム」となった、あのリズムである。

『Dynamite』と『Butter』の「4つ打ち」は、妙な言い方だが、「4つ打ち」よりも「4つ打ち」らしい、言わば「4つ打ちの真打ち」のような響きである。具体的には、クイーン80年のヒット『地獄へ道づれ』(Another One Bites the Dust)や、マイケル・ジャクソンの大ヒット『ビリー・ジーン』(83年)級である(特に『Butter』)。

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 だからこそ、このリズムは、異様に間口が広い。全米、それも都会も田舎も老若男女すべてが「思わず腰が動く」リズムになっている。リズムが複雑化、細分化した音楽シーンの中で、あえてど真ん中に切り込んだ、一周回って独創的で戦略的なリズムとも言えよう。

「アメリカン・ミュージック・アワーズ(AMA)」で最高賞を受賞したBTS ©️getty

 またコード進行も特徴的で、両曲とも「循環コード」を使っている。具体的には(以下キーをCに移調して)『Dynamite』は「Am→Dm→G→C」、『Butter』は「F→G→Am」というコード進行を何度も繰り返すのだ。特に『Dynamite』は、これ以外のコード進行が一切出てこない「完全循環コード」だ(但し、曲中で全音上に転調する)。

 ちなみに『Dynamite』のコード進行=「Am→Dm→G→C」は、マキタスポーツが「ドラマチックマイナー」と名付けたコード進行に近似している。これは、小室哲哉が多用したり、LiSAの『炎(ほむら)』でも使われたりと、日本においても極めて通俗的なコード進行だ。

「4つ打ちの真打ち」の上に乗る「循環コード」がもたらすのは、シンプルなグルーヴがループして積み重なることによる原始的な快感。言い換えれば一種のトランス状態。平成日本のJポップにおいては、複雑なコード進行や複雑な転調が溢れたのだが、BTSのコード進行は、その真逆であり、そんな新鮮さが、米国のみならず、日本の若者をも虜にしたのだろう。