シンプルなのに飽きが来ないし、コスパが良い
しかし、BTSの音楽がさらに凄いのは、そんなシンプルなリズムとコード進行の上に乗るボーカルにも、ある極端な特徴を持たせていることだ。
百花繚乱・千変万化……7人のメンバーが手を変え品を変え、リードメロディからハーモニー、オブリガート、さらにはラップと、たった1曲、たった約3分の中に、これでもかこれでもかと変化を付けた・付けまくったボーカルを乗せる・乗せまくる。
ここらあたりも、単一のメロディを最初から最後までユニゾンで歌う(それも単一の衣装、単一の振り付けで)日本の多くのアイドルグループと根本的に違うところなのだが。
話を戻すと、シンプルなリズムとコード進行という「下半身」による分かりやすさ、間口の広さ、「思わず腰が動く」感じに、変化を付けまくったボーカルという「上半身」による、楽しさ、飽きさせない感じ、さらには満腹感。それがたった約3分の間に詰め込まれているという(コストパーならぬ)「タイムパー」の高さ――これらが全米、ひいては世界を席巻したBTSの音楽の魅力の全容なのである。
シンプルで、とっつきやすく、分かりやすく、使いやすい。なのに、飽きが来ない、お得な感じ――これらは、ソニーのトランジスタラジオや、ホンダのCVCCエンジンなど、昭和の時代に米国市場を席巻したメイド・イン・ジャパンの魅力とぴったり重なる。
もしかしたら彼らの音楽は、日本経済の世界的復権に向けた重要なあれこれをも、示唆しているのかもしれない。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』に掲載されています。