コロナ禍において、皇室のあり方はそれまでと大きく変化した。天皇皇后などが日本の様々な地域を訪問し、そこで人々と交流する機会はなくなった。そのように直接的に「国民と苦楽を共にする」ことこそが、人々からの尊敬や支持を集め、象徴天皇制という制度を支えていたが、そうしたいわゆる「平成流」のあり方は困難になった。

 そこから徳仁天皇の模索が始まった。まず、2020年4月からは尾身茂氏などの専門家による「ご進講」を数多く受け、この感染症についての理解を深めたほか、それによる人々への影響についても把握しようと努めた。

皇居で新年一般参賀に出席された天皇皇后両陛下(2020年)©AFLO

 また、様々な場面での「おことば」のなかに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を憂慮する文言が入っているのも特徴的である。その代表的な例が、同年8月15日の全国戦没者追悼式における「おことば」だろう。「私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います」と、定型的とも言える文言に、あえて新型コロナの問題に関する一段落を加え、人々が平和な生活を送ることができるように天皇は願った。これは、政治的メッセージと受け取られないようにする配慮の一つだったとも思われる。

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新年のビデオメッセージ

 そして2021年1月1日、皇后とともに新年のビデオメッセージを公表した。これは、新年の一般参賀が中止となるなかで、それの代替とも言える措置であった。一方で、新型コロナの感染拡大が続くなかで、平成の天皇が東日本大震災の時に出したビデオメッセージの経験から、徳仁天皇にもそれを求める意見が挙がっており、そうした声に応える意味もあったのではないか。

 とはいえ、イギリスのエリザベス女王などヨーロッパの君主が新型コロナの感染拡大に対してビデオメッセージを出したのとは違い、日本の天皇は象徴という立場にあり、政治的とも受け取られる可能性があるメッセージは出しにくかった。それでもあえて、新年のあいさつという形式をとって、踏み切ったのである。