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《二刀流・大谷翔平とベーブ・ルースを繋ぐ奇縁》岩手出身の「球聖」久慈次郎が築いた日米野球“88年前のキズナ”

2022/01/03

 大リーグ・エンゼルスの大谷翔平の名前を知らない人は日本中にいないだろう。アメリカンリーグの最優秀選手賞(MVP)を獲得したことで、野球好きではないアメリカ人でも「ショウヘイ・オオタニ」は、特別な存在と映っている。なぜなら野球の神様と言われるベーブ・ルースと比較されるからだ。そんなことを今さら……と思われる読者に大谷翔平とベーブ・ルースを結ぶ不思議な縁が昭和初期にすでにあったことをお伝えしたい。キーパーソンは読売巨人軍の初代主将になるはずだった久慈次郎という大谷と同じ岩手にゆかりがある「球聖」である。

左から大谷翔平、久慈次郎、ベーブ・ルース

大谷は「ベーブ・ルースと比較していただけるだけでとても光栄」

 2021年11月15日に千代田区の日本記者クラブで開かれた大谷の帰国会見。大谷は約1時間に及ぶ質問に嫌な顔ひとつ見せず答えた。二刀流を比較されるベーブ・ルースについて記者から聞かれたのは、会見の終盤だった。

「比較していただけるだけでとても光栄なことというか。残した数字だけではない方だと思うので、そこが一番すごいのであって、いつまでも覚えてもらえる選手ってなかなかいることではないので、そこは選手として目指すべきもののひとつだと思いますし、そういう方だなと。実際にやっているところを見ていないですけど、多くの人が知っている、それはすごいことだなと」

日ハムにいたから二刀流が実現した

 私は、大谷にこの質問を直接するために2018年10月1日、シーズン最終戦が行われたエンゼルスの本拠地、アナハイムにあるエンゼル・スタジアムを訪れたことがある。

 試合開始前の記者会見室。日本人記者に「岩手のテレビ局から取材に来ました。最後にひとつ質問させてくださいね」と根回しをした。

 大谷がエンゼルスに入ると知って、広報に応募したロサンゼルス在住の日系人女性グレース・マクナミーさんは元ドジャースの野茂英雄の通訳として知られる。彼女が「そろそろいいですか」と言い終わる寸前に私は手を挙げた。

「ベーブ・ルースと比較されることについて、ご自身ではどう思っていらっしゃいますか」

 その日、大谷は数時間後に始まる最終戦のあとに右ひじのトミー・ジョン手術を受けるために病院に直行する予定だった。私はこの日どうしても大谷に聞きたかった。翌年、二刀流への挑戦ができなくなる可能性もあったからだ。大谷は、「まあ、すごいうれしい気持ちもあるんですけど……うーん」と言って、少し宙を見つめたあと、言葉をつないだ。

「何ていうんですかね。本の中でしか見たことがなかったりとか、やっぱり、神様みたいな存在だと思うので。うーん、なかなか自分とどうのということはないのかなと思うので。まあ、できることをやっていきたいなと思っています。その先で、野球をやめるときに自分がどうなっているのか、またその時でいいんじゃないかな、と思ってます」

ベーブ・ルースについて本音を語ったのは初めてだった(岩手めんこいテレビ)

 何度か自分でうなずきながら「神様」への思いを語った。

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