「創価学会の学会員さんの中に、この10万円相当の給付を“見返り”と考えている人はいません。むしろ、功徳を積むための“武器”なんですよ」

 2年前まで学会員だった愛知県の天野達志(58)が説いたのは、いま、「クーポンか現金か」で物議を醸している18歳以下への10万円相当給付のことだ。

 政府は2兆円もの予算を2000万人に配ることを決めたものの、いまだこの政策への国民の違和感は強い。NHKの世論調査(12月13日)では、「大いに評価する」は5%に過ぎない。「ある程度評価する」と合わせても33%に止まるのに対し、「あまり評価しない」「まったく評価しない」を合わせると62%に上る。

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 騒動の元凶を辿ると、公明党が衆院選で掲げた「一律給付」の公約に突き当たる。

 公明党の支持母体は創価学会だが、私には疑問があった。現場の学会員はこの給付を本当に求めているのか? 公明党の講演会を覗いても聴衆は70〜80代ばかりで子育て世帯への給付にメリットは薄くないか? 一体何のためなのだ――私の疑問に「功徳を積むための武器」と説明した天野自身も、数年前まで「学会活動」と称する公明党への支援を広げるための活動に手弁当で参加し、地域組織の中堅幹部を任されてもいた人物だ。

公明党本部 ©時事通信社

「公明党は仏法を基調に池田大作先生が作った党です。この党を応援して支援者を増やすこと、イコール、仏法を広めていくこと。そのことに“功徳”があるという考え方をするのが創価学会です」

 そう話す天野だが「あること」がきっかけで学会組織と対立を深め、除名されている。その経緯は後述するが、かつて組織の一員として天野が志を共有した公明党執行部は「学会員の武器」獲得のため、反対論の強い自民党を押し切って決定に持ち込んだのだ。

“公約通り”にこだわった公明党執行部

 選挙直後から、単身者や、高齢で子供がいない世帯の困窮者はどうなるのか、なぜ「年収960万円未満」の制限を「世帯合算」でなく「主たる生計者」で見るのかといった疑問点が投げかけられる中でも、山口那津男代表ら執行部は決定に持ち込む直前まで強硬だった。

 学会の政治部門を切り離して立党した公明党の代表は、学会全体から見ると中間管理職にすぎない。しかし、「学会の側から『無理をしないように』というシグナルが送られていたのに、山口ら公明党執行部は、“公約通り”にこだわった」(政治部記者)という。

 世間の批判を受け止める柔軟性がなく、大きな土産物を持ち帰って上の歓心を買うことを重んじた山口代表ら党執行部の挙動には、組織の官僚化をうかがわせるものがある。

 自民党と連立を組んで22年――創価学会と公明党に何が起こっているのか。その内実はなかなか見えにくいが、天野が学会員として抱えた葛藤にその片鱗が見えるのだ。