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「自分の魅力や才能がわからない」神田沙也加さんが向き合い続けた“芸能界の厳しさ”と松田聖子との“理想の母娘関係”〈もし母親になったら子供と…〉

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source : 文藝春秋 2001年10月号

genre : ライフ, 芸能

note

松田聖子の娘として見られること

 自分も疲れているのに、そんな時でも自分以上に私の仕事や学校のことを一緒に色々考えてくれる。これは私だけにいえることではなく、周りのみんなをとても大切にする人だと思う。こんな風に、私の母は、仕事の面でも人柄の面でも、超素敵で超カッコいいスーパーな“ママ”なのだ。だから、松田聖子の娘として見られることが、重くのしかかってくるという感じもないのだ。

 8月29日、ついにみんなとお別れする日がやってきた。

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 最後の撮影場所はお寺だった。メークをしてもらって、いつもの制服に着替え、撮影する部屋に行くと、リッチーもいつもの着物を着て、用意されたテーブルの前に座っていた。いつも通りのこの風景も今日で最後だと思うと、ふいに涙が出そうになった。

「今日で最後だねー」

 この日、何度そう言ったことだろう。

「今日で最後だねー」

 と何度目かに言った時、リッチーが、

「もうやめてよ、さっきから我慢してるんだから」

 と言って、テーブルに顔を伏せた。

2017年、ミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」の製作発表に登壇した神田沙也加さん

「すごくつらいことがいっぱいありました」

 昼食に“MARUCHAN”のカップラーメンを選び、リッチーと2人で騒ぎながら食べていると、監督が近づいてきた。

「Hi!」

「ハーイ!」

 リッチーと2人で手を振って答えた。

「最後のシーンの事なんだけど……」

 普段はあまり私達の演技に関して口を出さない監督が、珍しく演技指導を始めた。それは、おはぎを食べる大事な締めくくりのシーンで、監督にとっては、ここが一番思い入れのあるシーンに違いなかった。

「Action!」

 監督の声が響いて、いよいよ最後のシーンの撮影になった。

「どう?」

 リッチーが監督に言われたニュアンスのとおりに言った。

「うん、すっごく美味しい!」

 私も監督の演技指導にならった。

「Cut!」

『アナと雪の女王』で妹・アナの声を演じた神田沙也加さん。『アナと雪の女王2』のスペシャルイベントに登壇

 夕方までかかって、何度も繰り返した最後のシーンが終わった。

 拍手が鳴り止むと、監督が私達に言った。

「すごくつらいことがいっぱいありました。とても大変で、止めてしまおうかと思ったこともありました。でも……」

 監督の目が赤かった。

「ありがとう。良かった。本当に良かった。どうもありがとう!」

 私達は、監督と固く握手をした。最後にみんなで記念写真を撮って、全ての撮影が終わった。こうして、約2週間におよぶ私の映画初出演の幕が閉じたのだった。

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