玄関のドアを開けると……
母が玄関のドアを開けるも誰もいない。しかしインターホンのメロディは鳴り止まない。近所迷惑を恐れた母は止め方がわからないので、インターホンごと引きちぎった。それでようやく音は止んだ。
1時間後、再びインターホンが鳴り出した。引きちぎられたインターホンが台所から鳴っていた。母はどうすることもできず困り果てるも、インターホンが電池式であることにようやく気づき、電池を抜くことで音が鳴り止んだ。
それにしても不可思議な点が多過ぎる。深夜2時に誰がインターホンを押したのか。何故鳴り止まなかったのか。何故玄関から引きちぎったら鳴り止んだのか。台所から鳴った2度目のインターホンは誰が押したのか。
「しばらく換えてなかったからおかしくなってたんやろかねぇ」
母は偶然と偶然が重なったのだろうと説明していたが、明らかにテンションは高かった。むしろ遺骨のお父さんが何かしらのアクションを起こしたのだと考える方が自然だった。僕はきっと遺骨のお父さんは不器用な人なのだろうと解釈した。
恐山でイタコに会う
9月、僕は青森県の恐山に行った。恐山は言わずと知れた日本三大霊場の一つ。下北半島では昔から「人は死んだら“お山”に行く」と言われ、恐山は死者の霊魂が集まる場所として信仰されてきた。さらに恐山には年に2回、夏と秋に大祭があり、イタコに会える。「イタコの口寄せ」は死者の霊を呼び起こし、故人と対話できるという。
その日は大祭ではなかったが、たまたま一人、小屋にイタコさんが座っていた。僕はお盆に墓参りに行った祖母を口寄せしてもらった。
「あんたたちともっと一緒にいたかった」
僕が物心ついた頃には祖母は認知症だったので、まともに会話をした記憶はない。それでも「僕のこと憶えてる?」の問いに、「もちろん憶えとるよ」と言ってくれた。「仕事はどうだい?」と聞かれ、「事故物件に住んで、そっちの世界を探ってるよ」と答えた。
「そうかい、でもこっちに来ちゃいかんよ」
おばあちゃんは何かを察したのか、すぐさまそう返してきた。そして、少し間を空けてから、「こっちの世界が知りたければ、『鬼滅の刃』を見なさい」と言った。
おばあちゃん、こっち(現世)の世界のこともよく知っていた。たまに様子を見に来ているのかもしれない。