食生活からがん予防を考えていく当企画。まず最初に取り上げる食材は「コーヒー」です。

 この企画では、世界中の研究の中から、比較的エビデンス(科学的根拠)が揃っているものについて解説していきますが、その中でもコーヒーは、信頼性の高い研究結果が揃っている食材の1つといえます。

 国際的な疫学研究でも、コーヒーによる肝がんの予防効果を示す研究結果が数多く出ています。

ADVERTISEMENT

 日本でも、コホート研究(集団を一定期間追跡する研究)など複数の疫学研究において同様の結果が得られており、コーヒーの持つがん予防効果は「ほぼ確実」(肝臓)もしくは「可能性あり」(大腸、子宮内膜)との判定を得るに至っています。私が主任研究者として参加した多目的コホート研究は、全国11の保健所管内に住む男女約10万人を対象に1990年から1994年にかけてアンケート調査を行い、その5年後と10年後にも同様の調査を実施したものです。

 この調査の中で、コーヒーについては約10万人を対象として、コーヒーを飲む頻度ごとにグループ分けし、10年間にわたってがんの発生率を追跡調査しています。調査結果では、コーヒーをまったく飲まない人が肝がんになるリスクを「100」とした場合、一日あたり1~2杯のコーヒーを飲む人が肝がんになる割合は「52」、3~4杯飲む人は「48」、5杯以上飲む人では「24」と明らかな効果が見られました。

 コーヒーと肝がんについては、国内で行われた他の2つのコホート研究でも同様の結果が得られています。

 肝がんの他にも、コーヒーをよく飲んでいる人ほど子宮体がんの発生率が低く、また、女性においては一部の大腸がんになる確率も低い傾向にあることがわかりました。男性の大腸がんについては、飲むコーヒーの量によるがん発生率の差は見られませんでした。これは男性に飲酒や喫煙習慣のある人が多いことが関係している可能性もあります(非喫煙者においては逆に「コーヒーを飲む人のほうが膀胱がんの発症リスクが高い」という研究結果も出ています)。

©iStock.com

 コーヒーを飲むと、なぜがん予防の効果があるのか。そのメカニズムははっきりとは分かっていませんが、カギとなるのは、コーヒーに含まれる「クロロゲン酸」というフェノール化合物です。クロロゲン酸には血糖の吸収を抑制する働きがあり、これにより、膵臓から分泌されるインスリンの量も減少します。インスリンには腫瘍を増殖させる働きもあるので、その量が減ることは、がんが増殖する機会を減らすことにもつながるのです。

 コーヒーに含まれるカフェインの持つ脂肪燃焼作用も、インスリンを節約する効果を持ちますが、デカフェ(カフェインレスコーヒー)でもがん予防効果があるという報告もあります。

 クロロゲン酸には他に抗酸化作用といって、がんの大元である活性酸素の働きを抑え込む働きもあります。

 これらの要因が複合的に作用して、がんの発生リスクを下げているのではないか、と考えることができるのです。

 ただ、コーヒーの飲み過ぎは胃を荒らすなど健康に悪い影響を与える側面もあります。無闇にたくさん飲もうとするのではなく、あくまで嗜好品として楽しむという付き合い方が、結果として「がん予防」というメリットを呼び込むのです。