野菜に続き、本稿は「果物」の持つがん予防効果について考えてみます。

 果物ががん予防に効果があることは、ある程度明らかになっています。2007年に世界がん研究基金と米国がん研究協会が行った判定によると、口腔、咽頭、喉頭、食道、胃、肺のがんに対して、「果物はリスクを下げる可能性が大である」としています。

 同様に日本人のエビデンスに基づく評価でも、果物は野菜と同じように、食道がんのリスクを下げることは「ほぼ確実」、胃がんと肺がんも「可能性あり」との判定が下りています。

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 こうした「果物とがん予防」の関連については、人を対象とした複数の疫学研究(コホート研究や患者対照研究)で、「予防的な関連」が示されており、やはり果物は、がん予防のために食べておくべき食材といえるでしょう。

 ではなぜ果物ががん予防に効果を発揮するのでしょう。色々な要因が考えられますが、何といっても大きいのは柿やイチゴ、柑橘類などに特に多く含まれるビタミンCの存在です。みかんなど柑橘系の果物に多く含まれるこの栄養成分は、「抗酸化ビタミン」の筆頭格。体内で発生する活性酸素やフリーラジカルといったがんを作り出す物質を攻撃して消し去ることを「抗酸化」といいますが、この「抗酸化作用」を持つビタミンの中でも、ビタミンCは代表的存在なのです。

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 しかも、ビタミンCは単に酸化を防ぐだけではなく、免疫力を高める働きを併せ持っていることも知られており、総合的にがん予防に寄与する可能性が高いと言えそうです。

 中でも注目したいのが、ビタミンCが持つ「胃の粘膜の萎縮抑制作用」です。胃がん発生率の多い地域でわれわれが行った無作為比較試験によると、萎縮性胃炎の人を投与量(毎日50ミリグラムか500ミリグラム)でグループ分けしてビタミンCを摂取してもらったところ、ビタミンC摂取量の多いグループで胃粘膜の萎縮の進展が遅かった――という結果が得られました。

 特に、胃がんの温床ともいわれる「ピロリ菌」の保菌者の場合、ピロリ菌によって引き起こされる胃炎を抑えるために血中のビタミンCが消費されやすくなります。ピロリ菌を持っている人、あるいは胃炎の人は、より積極的に摂取する必要があるかもしれません。

 厚生労働省が2015年に出した「日本人の食事摂取基準」によると、1日当たりに推奨されるビタミンC摂取量は、成人で100ミリグラム、妊婦で110ミリグラム、授乳中の女性で145ミリグラムとされています。ちなみに「100ミリグラムのビタミンC」を摂取するには、みかんなら3~5個、柿なら1個程度が目安ですが、いろいろな野菜と果物から摂取することをお勧めします。

 さらに、がんとは別の話ですが、われわれが行っている多目的コホート研究では、果物の摂取量が多い人ほど循環器疾患のリスクが低いという結果が出ました。がんだけではなく心臓病予防にも、果物は効果を発揮してくれそうです(果物に多く含まれるカリウムが血圧を下げる効果があることも関係していそうです)。

 ただ、そんな果物にも注意点があります。ビタミンCは鉄分の吸収を高める働きも持っており、鉄分は肝がんのリスク要因でもあるのです。したがって、慢性肝炎や肝硬変など、肝がんのリスクを持っている人はビタミンCの摂り過ぎは控えたほうがいいでしょう。