天皇陛下が乗車される車両には、必ず予備が用意されている。列車は予備を含めて2編成が整備される。車の場合、どんなに遠方であっても御料車は東京から運び込まれるが、最低でも2台は用意される。
車列をよく見ると、御料車の何台か後方に、同タイプの車が必ず追走している。菊の紋章や旗を掲げていないので分かりにくいが、いざという時のための予備車だ。
お出ましにあたって、受け入れ側も入念に準備を行う。車列が走る道路の舗装を新しくしたり、お召し列車が走る線路のレールを乗り心地がよいものに交換することもある。車列を先導する都道府県警察は、秒刻みで予定通りに車を進めるため、何度も予行演習を行う。鉄道も少しでも乗り心地がよくなるように、運転士の選抜が行われ、熟練のための試運転が繰り返される。
このように念には念を入れて準備が行われるが、本番当日、予定が押して時間が遅れることが多い。これは、訪問先で予定を過ぎても、両陛下が熱心に多くの人の話に耳を傾けているためだ。秒刻みで緻密にスケジュールが管理されているにも関わらず、その時間を過ぎても両陛下が熱心に話を聞いて下さったとしたら、感動はより大きくなるだろう。
沿道の警備も独特!
沿道の警備も独特だ。両陛下の移動距離が長くなればなるほど警備の人員も必要になる。地方では、全国の警察官が結集する。区間ごとに担当が異なり、このエリアは長崎県警、次のエリアは青森県警といった具合だ。
そして、沿道で奉迎に訪れた市民の案内をする警察官は私服と決まっている。ポロシャツにチノパンといった装いで、腕に○○県警の腕章をしている。案内役の警察官は、とても優しく接してくれる。時には関西の警察官同士でコントのようなやり取りを見せてくれることもあった。奉迎者は、長いと何時間も現場で待つことになるが、怒ったりイライラしたりせず、気持ちよく陛下をお迎えしてもらおうという配慮だろう。
現場で長時間、待ちながら警察官の話を聞いているうちに、警察官と奉迎者の間で信頼関係が生れてくる。車列が来る直前になると、それまで設置されていた車道と奉迎場所を区切る柵やロープが一斉に撤去される。私服の警察官は腕章を外し、「私が言ったこと、守って下さいね。よろしくお願いします」と言い残して、奉迎者の後ろへと消えてゆく。
両陛下が乗った車列が通過する際には、隔てる柵やロープは無く、警察官の姿もない。このようにして、表面上、全く警備されていないのに、とても統制された奉迎が行われているのだ。
(後編に続く)
撮影=鹿取茂雄
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