治療費や教育費を子どもに教えるのも、教育の一つ
──お子さんの教育費が削れないという方もいます。
黒田 たしかに子どもの教育費は「聖域」と言われています。しかし、お金をかけたからといって、良い教育が与えられるわけではないですよね。高校や大学で金融教育やライフプランセミナーを行う機会もあるのですが、「親の年収を知っている人?」と質問しても把握しているお子さんはほとんどいません。私にも娘がいますので、がんになった親御さんがお子さんに「あなたはお金の心配をしなくていい」と思うお気持ちもわかりますが、お子さんが高校生くらいなら、もっとオープンに「治療にこれだけお金がかかって大変だけど一緒に頑張ろうね」と言ってもいいと思いますよ。
親のがんのことを、どんな風に子どもへ伝えれば良いかわからない場合は、学校のスクールカウンセラーに相談するのも一手です。その中で治療費や教育費の話にも触れられれば、足りない分は自分でバイトしようとか、お金に対するありがたみをもっと感じると思います。これも一つの「教育」なのではないでしょうか。
がん患者の3人に1人が就労世代
──治療が何年も継続すると、経済的リスクはさらに高まりますね。
黒田 ある調査では「がん治療を4年以上継続している患者が約3割」という結果が出ています。最近はがん患者の3人に1人が就労世代だといわれ、罹患後に退職や休職、残業減などで収入が減って困った、というご相談もよく聞きます。がんというと、治療などで支出が増えることを心配する方がいますが、実はその後の収入ダウンの方が、生活やライフプランへのダメージが大きいんです。だから私は、「安易に仕事を辞めないで!」とよくお伝えしています。正社員でバリバリ残業もして……というのは難しいにしても、社内外の制度を活用して、できるだけ長く安定して働ける環境を作れるよう頑張って欲しいと思います。
──抗がん剤やホルモン治療の副作用で、働くどころか人と会うのが億劫になる人も多いと聞きました。
黒田 確かに、頭痛や目眩、発汗、筋肉痛、発熱、関節痛などの副作用には悩まされます。特にホルモン治療は、更年期障害のような副作用が出るなど、個人差がありますね。でもじっと家にいるとネガティブなことばかり考えてしまいますし、外に出て人と話したり、好きなことをしているほうが意外と気が紛れて、「体調の悪さを忘れていた」なんてこともあると思うんです。
もちろんムリは禁物ですが、多少しんどくても仕事に行くとなれば身なりにも気を使いますし、むりやりにでも気力が湧いてきます。私も乳がんに罹患した直後は、家族から「一日中パジャマを着てゴロゴロしていろ」くらいなことを言われましたが、そんな生活を続けたらそれこそ鬱になりますよ(笑)。振り返ってみると、がん罹患後もできる範囲で仕事を続けていて、本当に良かったと思っています。
写真=杉山秀樹/文藝春秋
(#2に続きます)
くろだ・なおこ/1969年生まれ。CFP1級ファイナンシャルプランニング技能士・CNJ認定の乳がん体験者コーディネーター。1998年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆など幅広く活躍。消費生活専門相談員資格も持ち、消費者問題にも注力している。
黒田尚子FPオフィス公式HP www.naoko-kuroda.com/