カレーメシは「ひたすら作り方を説明しているだけ」
――ご自身の中で、特に思い入れのある作品はありますか。
佐藤 自分の転機になったCMというところで、『カレーメシ』ですかね。日清さんは僕にとって初めてのメジャークライアントだったんですが、僕がやりたいことを信じて任せてくれて、しかも話題になった。めちゃくちゃなCMに見えますが、実は最初から最後までちゃんと商品説明をしているんです。商品が“ど真ん中”にあって、ひたすら作り方を説明しているだけ。でも、ナレーションの内容とそれを表現する絵がずれていたり、キャストがクセの強い人たちだったり、急にミニチュアやアニメーションに変化する世界観だったり、視聴者にとっての引っ掛かりをいくつも作ることで、見たことのないCMになったと思います。
――確かに、最新のCMでもザコシショウさんのコミカルな動きや独特なBGMが印象に残りますが、ちゃんと聞けば「国産米100%」「釜炊き製法」と説明を続けています。
佐藤 そうなんです(笑)。あとはACCグランプリを獲った『さけるグミ』も印象深いですね。僕は昔からコメディが好きで、シュールなコントとかドラマとかお芝居を見るのが大好きだったんです。それらをCMの表現に落とし込んだ上で成立させられたことは、僕にとって自信になりました。
――『カレーメシ』のCMを手掛ける以前は、どういった作品を作っていたのでしょうか。
佐藤 地方のローカルCMを任せてもらうことが多かったです。予算は大きくなくても自由度が高い案件も多くて、楽しく作ったものが多いですね。たとえば名古屋のショッピングモール「サンシャインサカエ」のCMは、海外広告の流行を意識して作りました。ショートムービーのようなストーリー仕立てで進んでいって、最後に何のCMかがわかるという仕掛けなんですが、これはカンヌ国際広告賞(現在のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)で流行っていた方法です。実際にこのCMはアジア太平洋広告祭やカンヌライオンズでも良い賞をいただいて、僕自身もディレクターの賞をもらいました。ただ、東海地方限定のCMだったので、全国ではオンエアされていないんですよ。最近は、やっぱり多くの人に見てもらえないと広告として意味がないなと思っています。
「お笑いばっかり見ていました」
――人を惹きつける作品作りの秘訣を教えて下さい。
佐藤 テレビを見ている人はみんな番組を見たいのであって、CMを見たい人はいないじゃないですか。なので、CMがはじまってスマホを見ている人に顔を上げてもらうのが最初に目指すところです。他のCMもいっぱいある中でいかに普通じゃないものにするか、顔を上げさせるためのギミックを意識しています。
たとえば『日清ラ王』のCMだと、子どもが商品名を何度も言い間違えていれば、「全然名前言えてないじゃん」ってツッコみたくなると思うんです。寺田心くんが「ブックオフなのに本ねぇ~じゃん!」っていう絶対言わなそうなセリフを叫んでいたら、思わず見ちゃうじゃないですか。人は見たことのあるものには反応しないので、視聴者が初めて出会う何かを入れるように心がけています。
それと、あえて完璧にしないことですかね。ある程度雑な部分を残しておくことで違和感を作って、視聴者にとっての引っ掛かりを増やしています。ツッコむ要素を含ませておくことで、それを周りに広めたくなったり、もう一度見たくなったりしてもらえればと思っています。
――佐藤さん自身が小さい頃に大好きだったCMはあるんですか?
佐藤 佐藤雅彦さんが手掛けた『ポリンキー』とか『バザールでござーる』とか。あとは井村光明さんのファンタの『〇〇先生』シリーズも好きですね。15秒という短い尺でも面白さを生むことができるんだって感動した記憶があります。今でも、短くてシンプルなものに惹かれます。
――佐藤さんは1980年生まれ、仙台のご出身です。幼少期はどんな子どもだったのでしょう。
佐藤 とにかくイタズラっ子でしたね。毎日新しいイタズラを考えては実行することを繰り返していました。具体的には言えないですが、子供にしては相当レベルの高いイタズラをして遊んでいたと思います。今でもしょっちゅう演出に悪意があるよねって言われるのですが、確実にこの少年時代の影響だと思っています。
あとはお笑いばっかり見ていました。ドリフターズ、とんねるず、ダウンタウンは世代なのでもちろん全部見ていましたし、いま売れている千原兄弟やケンドーコバヤシ、野性爆弾、ハリウッドザコシショウがまだ若かった頃から、2丁目劇場のライブをケーブルテレビで見ていました。コメディ表現が好きなのもこの頃の影響ですね。今もお笑いは大好きです。