文春オンライン

「最近は広告に大きな責任を負わせすぎだと思う」カレーメシやUQUEENのCMディレクター・佐藤渉が“いい子”なCMを作らない理由

note

就活を始めたときはやりたいこともなかった。

――広告業界を目指したのはいつ頃ですか。

佐藤 大学3年生で就活を始めたときにはやりたいこともなくて、何にも考えていませんでした。一応経営学部だったので、業種もバラバラにとにかく色んな企業を受けていました。そんなときに、「世界のCMフェスティバル」という世界中の面白いCMをオールナイトで上映しているイベントにたまたま行く機会があったんです。ブラックなものから下ネタが入っているものまであって、広告ってこんなにふざけていいんだ、と衝撃を受けました。その後すぐに就活をやめて専門学校を探しました。

――就活をやめる決断は怖そうですね。

ADVERTISEMENT

佐藤 こんな面白いCMを作る職種に就きたいという一心でした。でも、最初は広告会社のプランナーになりたかったんです。『広告批評』という雑誌でCMプランナー特集が組まれていたりもする時代だったので、CMを企画するという仕事に憧れていたんですよね。結局フリーターを経たあと、26歳のときにようやくプランナー採用で入社しました。

©️文藝春秋

――そこからディレクターになろうと思ったのはなぜですか。

佐藤 実は面接で「企画しかやりたくないです」と言ったぐらい、ディレクターには興味がなかった……というか、そもそもディレクターという職種が何をする仕事か分かっていませんでした。でも下積みのうちはそんなわけにもいかず、やりたくもない演出をやっているうちに、だんだん映像作りの奥深さに惹かれて演出が楽しくなってきた。意識が明確に変わったのは「サンシャインサカエ」のときで、演出次第でこんなにも上がりに影響が出るんだと実感できたんです。キャスティング、セリフ、アングル、ロケーション、音楽、編集などが映像においてどれだけ重要なのかを感じるきっかけになりました。

――手応えを感じる瞬間はどんなときですか。

佐藤 世の中をざわつかせたいという思いがあるので、演出したCMが世の中に反応してもらえたときは「やってやった感」がありますね。ある程度話題になるとパロディが出てきたりモノマネされたりするので、その時は嬉しくなる瞬間ですね。『カレーメシ』が海外でリメイクされたときや、『さけるグミ』のCMが海外で話題になり、外国人が商品を欲しがってるという話を聞いた時は驚きました。

UHA味覚糖 さけるグミ 「さけるグミvsなが~いさけるグミ」篇

――ショートドラマのようなWeb CMも増えていますが、佐藤さんはWeb CMを作ることはありますか?

佐藤 長いCMは実はあんまり好きじゃないんです。Webは尺の制限がないので自由度はあるんですが、逆に面白くするのが難しくなるというか。相当綿密に構成して作らないと、途中での離脱を防げないんですよね。しかもテレビCMは他のテレビCMとの競争だけど、Web CMだとYouTubeとか他のコンテンツもライバルになる。いっぱい面白いものが転がっている中で目立つのは相当難しいなと思います。