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「くだらないものや意味がないものを生み出していきたい」

――話題になることとCMとして成功することの両立も難しそうです。

佐藤 あと実は、僕自身が長い映像をあまり見ていられなくて……。集中力が持たなくて、映画もあんまり見ません。現代人はどんどん集中力がなくなっているらしいですよね。見るものがたくさんあって、みんな何を見るか取捨選択をしている中で、視聴者の限られた時間を奪ってつまらないものを見せるのは失礼だと思っています。なので、一瞬の映像でも楽しい気持ちにさせられたらいいなと思っています。

日清食品 日清これ絶対うまいやつ! 「食ったことない」篇

――仕事の基準は、やはり自由度が高いものの優先度が高いのですか?

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佐藤 いえ、面白くなる要素があるかないか、それだけですね。オファーを受けたときにそれを自分で判断するようにしています。例えば、役者がよければ内容が普通でも目立つ可能性があります。逆に企画が面白ければ出ている人が有名でなくても話題になる可能性があります。どのポイントで今までのCMにはない引っかかりが作れるか、それが自分の中で明確にできれば、その企画に身を捧げようと思えるんです。

――これから作ってみたいCMのイメージはありますか。

佐藤 コロナ禍を経て、最近は広告の世界でも「無駄なくやろう」という雰囲気が強くなった気がします。失敗しないために、段階ごとにひとつひとつ慎重に決めてやっていくので、どんどん自由度がなくなっていっています。正直に言うと、面白いものを作りにくい環境にはなってしまっていますね。

 社会が非常事態にあるときって、企業はどうしても“良い子”になろうとするんですよ。今もまさにそうで、広告で真面目なことを言おうとする。でも僕は、そればかりが良いことだとは思わないです。広告って本来は商品やサービスを知ってもらう、買ってもらう役割でいいはずなのに、最近は広告に大きな責任を負わせすぎだと思うんですよね。しかもその企業や商品に似合わないことまで言おうとしてしまう。CMはもっとカジュアルでいいと思うんです。その瞬間、視聴者の感情をほんのちょっと揺るがすぐらいでいいんじゃないですかね。

Ⓒ文藝春秋

――佐藤さんの作る、妙にパワーのある目を引くCMをこれからも楽しみにしています。

佐藤 クリエイターはどうしても歳を重ねていくと丸くなってしまいがちですが、そうはなりたくないという思いは確実にあります。変にカッコつけたり、良いと思えないものを表現したくないんです。あくまで自分らしい表現で、くだらないものや意味がないものを生み出していきたいですね。そういうものも世の中に少しくらいあっていいはずだし、少なくとも僕はそういうものを作り続ける役割でいたいと思っています。