指示を無視したドライバーによる「責任転嫁」
しかし残念ながら、独断により誘導員の指示を無視した結果、事故を引き起こしてしまうドライバーも稀にいる。その際、「悪者」にされるのはきまって誘導員の方だという。
地方で行われるイベントで、Bさんは駐車場警備に配置された。施設周辺に駐車場はいくつかあったが、Bさんはそのうち施設入り口にもっとも近い駐車場を担当する。
持ち場となる駐車場が満車になった後、Bさんは入り口付近に立ち、駐めるところを探している車に空きのある駐車場を案内していた。駐車場に面しているのは片側1車線ずつの道路であり、入り口には右折進入禁止の看板が立てられている。
「入り口に並んでいる1台に案内し終えたところに、反対車線から右折で入ってこようとする車がいたので、誘導棒で入れないことを伝えました。一瞬減速する素振りがあったので、運転席に近寄って、右折侵入できないことを説明しようとしたんです。
ですが私が車の進路から外れた瞬間、急加速で突破しようとしてきて。間が悪く、案内していた車も発進したところで……バンパー同士がコツンとぶつかってしまいました。
指示を無視したドライバーが、降りてくるなり『邪魔すんじゃねぇよコラ!』と私の方に詰め寄ってきて、『お前どう責任取るの?』と。案内した側のドライバーも、反対車線の様子を見ていなかったのか、『ちゃんと止めておいてよ』と……なぜ自分が責められているのかわからず、逃げ出したい気持ちでした」
事故の「濡れ衣」を着せられ……
幸い、目撃者も複数いたこともあり、Bさんが損害賠償責任を負うことはなかった。しかし、事故によって現場が混乱したという事実により、依頼元の施設から警備会社へのクレームがあり、Bさん自身も会社から注意を受けた。
「事故の責任を押しつけられなかったことに安心して、その時は何も思わなかったんですが、後から『なんで自分が叱られたんだ?』ってジワジワと」
理不尽な扱いに憤りを覚えたが、「辞めるわけにもいかないので、気にしないことにした」という。
とはいえBさんの場合、金銭の請求を受けなかっただけ救いがあったのかもしれない。先のAさんの話では、誘導員個人が理不尽な請求を受けるケースもあるという。
「誘導側の過失があれば、請求は基本的に警備会社の方に行きます。会社によっては、それを全部個人に負担させるところもありますよ。
後は、その筋の人なのかわからないですけど、誘導中に自損事故を起こした人が警察や保険屋を挟まず、誘導員に直接請求するケースもあるみたいです。その場で誘導員の名前と連絡先なんかを控えておいて、後から。私の周りでも、事を大きくされたくなくて、払ってしまった人を知っています」
誘導員のミスによって生じた事故であれば、誘導員側に損害賠償責任が生じるのは道理である。しかし誘導員の雇用に対する不安を利用し、正規の手続きを踏まず、不当な請求を行う者もあるようだ。
なお、誘導員のミスで生じた事故であっても、ドライバーは刑事上・民事上の責任から免れるわけではない。誘導員の指示に従う際にも、しっかり自分の目で安全を確かめてから判断するようにしたい。