現場と離れた場所での事故なのに……
交通誘導の業務において、厄介な状況に遭遇しやすいのが「立哨」と呼ばれる業務だという。立哨とは、工事などで通行止めとなった道の出入り口に立ち、迂回路などを案内する業務を指す。
立哨の難しさについて、先のBさんは次のように言う。
「迂回する車にそれぞれルートを案内しなければならないので、直接文句や暴言を吐かれることもしょっちゅうです。『急いでるから通してよ』くらいならかわいいものです。案内の無視や、工事区域の住民だと嘘をつくドライバーもいます。工事が中断することになって、通した誘導員が怒られることになるので、勘弁してほしいです」
さらに、周辺の道路状況によっては、「案内の無視」が混乱を招くこともあるという。
その日Bさんが担当したのは、電線工事で一方通行の道の一角を封鎖した現場だった。裏道として利用されることの多い道路だが、工事で一部が遮られてしまうと、わざわざ混雑した道まで出なければならない。
「あんたらのせいで擦っちゃったんだけど」
封鎖した道の一本脇にある道を通ればロスは少ないが、その道は行き違いが困難なほど狭く、一方通行になっていない。混乱を避けるため、Bさんはなるべくその道を避け、混雑した道の方を案内していた。
「困ったのが、大きめの外車に乗ったドライバーが私の案内を無視してその道に入っていった時です。動きがぎこちない感じだったので不安に思っていると、そっちの方から何度かクラクションが鳴りました。
対向車とお見合い状態になってしまったんだと思いましたが、持ち場を離れるわけにはいきません。
ちょっとして鳴り止んだので、大丈夫だったのかと思っていたんですが、しばらくしてさっきの外車がまた戻ってきました。
車から出てくるなり、『あんたらのせいで擦っちゃったんだけど』と、前のバンパーにできた傷を見せられました。行き違いでうまく寄せられず、擦ってしまったようです。
責任は負えないと言っても、『工事がなければこんなことにならなかった』と引いてくれず、『あんたじゃ話にならないから責任者出して』と。
結局、現場監督にその場を収めてもらったんですが、後から監督に『余計な手間取らせないでよ』と言われて。どうすればよかったんだろうなって」
誘導による事故ならいざ知らず、現場を離れた場所での事故に対して責任を負えるはずもない。けれどもそのような理不尽なクレームを通して、誘導員の立場が危うくなることもありうるのである。