20年以上にわたり約2万件の刑事裁判を傍聴してきた裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火氏。その中から、忘れられない公判をあげてもらった。
今回は、何度も「変装」してイベント会場などに忍び込んだ男について。裁判長から「ルパン」とも語られた男の忘れられない裁判とは――。
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まずは2007年6月20日に東京簡裁で行われた裁判から。
罪名は建造物侵入、窃盗。被告人は、自動販売機設置業の男性(48)。起訴された事件は2つでした。
1つ目は、2006年7月16日の午後6時15分に被告人が東京都江東区にあるZepp Tokyoに侵入して現金125万円を盗んだ件。
2つ目は、2007年4月8日の午後7時35分に被告人が東京都墨田区にあるすみだトリフォニーホールのクロークに侵入した件。
「スーツにイヤホン、手にはトランシーバー」で関係者を装って会場に侵入
被告人は罪状認否で罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後に靴屋で働いたり運送業をしていて、犯行当時は自販機を設置する仕事をしていたそうです。6年前に別れた奥さんとの間には3人の子供がいるものの、犯行時は内妻と一緒に暮らしていたとのこと。
犯罪歴としては前科4犯。2003年に実刑判決を言い渡されたのが最後で、2006年に出所していたようです。
被害現場となった会場は両日ともコンサートが行われていて、被告人はスーツを着て左耳にイヤホンを付けトランシーバーを持ち、コンサートの関係者を装って会場に侵入したらしい。警備員のコスプレをした泥棒と言ったところでしょうか。
「いかにも関係者」な男がバレて捕まった“予想外の理由”
犯行日のZepp Tokyoの受付スタッフは取り調べに対し「売り上げの代金を計算していたところ、後ろの方を男が通ってグッズが入った段ボールに手を入れて何かを漁っていた。ア然とするばかりで追う事も出来なかった」と述べたそうです。
被告人を取り押さえたすみだトリフォニーホールの警備員は取り調べに対し「コンサートスタッフでもない男がロビーを行ったり来たりしていて不審に思っていた。するとグッズを管理するクロークに入って行ったので捕まえた」と供述したとのこと。
トランシーバーを持って耳にイヤホンを装着したスーツ姿の人がライブ会場にいてもそんなに不自然じゃないのに、何故逮捕されたのか? その答えは、すみだトリフォニーホールの警備員は全員Tシャツを着ていたのに、被告人だけがスーツだったから。ホントの警備員は全員ツアーTシャツを着てたんでしょうね。まさか被告人だけがスーツとは。リーダーっぽさはあるけど、そりゃあ目立ちますね。