年の瀬が迫るにつれて、街は日に日に慌ただしさを増していく。帰省や買い出し、どこに行くにも渋滞ばかりで、ウンザリしているドライバーも多いだろう。

 ただでさえ交通量が増えるなか、混雑に拍車をかけるのが道路工事である。よりによって、なぜ今なのか――時間としては数分のロスでも、思わぬ足止めに苛立ちを覚える者も少なくないはずだ。

 工事による交通の詰まりに対するドライバーたちの苛立ちを、一身に引き受けるのが交通誘導員である。彼ら自身は混雑の原因でないにもかかわらず、直接的な怒りの矛先とされてしまう。夏の日差しに雨や雪と、厳しい天候の下で立ち続けるだけでも重労働であるのに、人々のネガティブな感情にまで対峙し続ける負担は計り知れない。

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©️iStock.com

 業務を通じて無数のドライバーと接する交通誘導員は、いわば攻撃的なドライバーの専門家である。煽り運転が社会問題化するなか、ドライバーの苛立ちや怒りに対処し続ける彼らの経験は、ハンドルを握った私たちの振る舞いについて省みる材料を与えてくれるのではないか。

 交通誘導員として勤務する人々に、現場で遭遇した「ヤバいドライバー」についての話を聞いた。

生身の人間に対する「煽り」の数々

 交通誘導員として働いていると、常にどこかで「人間として見られていない感覚」がある。そう語るのは、10年以上の勤務経験を持つAさんだ。

「罵倒されるのはもう毎日。『邪魔なんだよ』とか、『こんな時間に工事すんな』とか。それはでも、工事で迷惑をかけているので、仕方がないと割り切っていますよ。でも、『バカ』とか『消えろ』とか、そういうのはいつまで経っても慣れない。窓を閉めている車からも、結構はっきり聞こえてきます」

 通りすがりの他人から、いきなり人格攻撃を浴びせられるストレスは想像しがたいものだ。さらに言葉以外にも、ドライバーによる攻撃的な行動はしばしば見られるという。

「クラクション、パッシング。止めているのにスピードを落とさず、急ブレーキで目の前に止まられたりとか。障害物として見えているんでしょうね」

 いわゆる「煽り運転」が、車両ではなく人間に向けられていることになる。生身の状態で、敵意を剥き出しにした自動車と相対する恐怖はどれほどのものだろうか。

指示を無視しておきながら……

 一方で、そうしたドライバーたちも「指示に従ってくれるだけマシ」だという。

「こちらの指示を無視して無理矢理進もうとする車もいますよ。プロでも、一般のドライバーでも。どうにか止めても『なんでお前に従わなきゃいけないんだ』って。法律でいえばその通りではあるんですけど」

 道路交通法において、警察官が行う「交通整理」と、警備員などが行う「交通誘導」は明確に区別されている。前者は信号に対しても優先されるべき指示として、法的拘束力を持っており、違反した場合の罰則も定められている。

 これに対し、交通誘導はあくまで「協力要請」として位置づけられ、法的な拘束力を持っていない。この点を知ってか知らずか、「民間警備員の指示に従う義務はないだろう」と振る舞うドライバーもいるようである。

 法的拘束力はないとはいえ、現場の状況を把握しているのは多くの場合誘導員の方である。そもそもドライバーが先の状況を見通せないからこそ、誘導員が配置されているのであるから、基本的にはその指示に従うことが望ましいだろう。