昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

source : ライフスタイル出版

genre : ライフ, ライフスタイル, 社会, ヘルス, 医療

ウイルスは勝手に変異する

内田 そもそもスペイン風邪ってなんで終わったんですか? みんなに抗体ができたからなんですか?

仲野 理由ははっきりとわかっていませんが、不思議なことに、どんな疫病でも延々と続くことはないんです。必ず終息するんですよね。

内田 それって感染する生物がいなくなると生き延びられないというウィルス側の生存戦略の帰結なんですか?

内田樹氏

仲野 メディアではよくウィルスが擬人化して表現されるんですが、ウィルス自体に生存戦略はなくて、勝手にランダムに変異しているだけです。ノーベル賞を取ったピーター・メダワーという著名な免疫学者がいるんですが、もともとウィルス研究者だった彼は、「ウィルスとはタンパク質に囲まれた不幸な知らせである」と定義しています。この程度に解釈するのが正しくて、ウイルスは勝手に変異するだけで生存戦略もへったくれもない。

初めて発見されたのは、19世紀の終わり

 変異について少し説明すると、遺伝子が複製されるときに変異は必ず一定の率で生じます。われわれの細胞でも起こっていて、人間の細胞の場合は変異が蓄積してがんになったりします。人間の細胞は遺伝子がDNAでできていて、その複製機構の関係からDNAは変異率が低いのです。一方、コロナウィルスの場合はRNAでできていて、こちらは変異率が高い。コロナはRNAウィルスの割には変異率が低いほうですが、それでもDNAウイルスに比べたらはるかに高い。

 

 遺伝子は100パーセント間違えないように複製できたほうがいいんですが、生物にとってそれはコストがかかりすぎるから、ある程度変異を許容することが、生存戦略上のアドバンテージになるんですね。

内田 やっぱり生存戦略はあるんだ(笑)。

仲野 進化的に考えて、コストがかかりすぎないようにするということはあるんですけど、ウイルスは変わろうとして変わるんじゃなくて勝手に変異してしまうんです。

内田 ウイルスが発見されたのって19世紀の終わりぐらいでしたね。

仲野 はい、細菌より小さな病原体が素焼きの陶器を通り抜けることから、濾過性病原体として発見されました。電子顕微鏡で観察できるようになったのは1930年代になってからです。