「仕事」は多くの人の生活にとって重要なものだ。それにもかかわらず、他人の仕事についての価値観を頭ごなしに非難したり、キャリアを馬鹿にしたりする人は少なからずいる。アイドルからライターへと転身し、活躍を続ける大木亜希子氏も、かつて自身の「仕事」の選択を批判されたことがあるという。その際の経験を踏まえ、彼女は自身のキャリアをどのように振り返るのだろう。

 ここでは、博報堂のシンクタンク「博報堂生活総合研究所」による、広汎な生活調査「生活定点」をテーマに、数多くの筆者が文章を寄せた『博報堂生活総研のキラーデータで語るリアル平成史』(星海社新書)の一部を抜粋。大木亜希子氏が自身の体験とデータを照らし合わせて考える、時代とともに変化した仕事観を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

大木亜希子氏 写真=末永裕樹/文藝春秋

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マウンティング男が放った衝撃のひとこと

「ライターなんて仕事、どうしてやろうと思ったの? あんま儲からないだろ?」

 ひとりの男が、私に向けて言い放った。

 平成27年、SDN48というアイドルグループの卒業後、数年間の地下アイドル活動を経て転職が決まり、初めて出社する前夜のことである。

 頭数を揃えるためタレント仲間に呼ばれ、渋々行った合コンの席で事件は起こった。

「明日から私、アイドル辞めて会社員ライターになるんです」

 私の自己紹介を聞くやいなや、その男はニタニタと微笑んで前述の台詞を吐いた。

 実に見下した表情で。

 首筋に戦慄が走り、“一発退場の笛の音”が脳内に鳴り響く。

 またたく間に、会に参加していた他の面々も静まり返った。

 同時に、私の耳の奥からゴングの音が鳴る。

 このマウンティング男に決して屈してはならぬという、戦いの始まりを示す合図だった。

「はぁ。どうしてライターになろうと思ったか、ですか? 文章を書くことが三度の飯より好きだからですね。世の中お金が全てじゃないですし、私は安定よりも、やりがいを重視します」

 ダメージを食らいながらも、私は必死でジャブを打ち返す。

 ところが、男はひるまなかった。

「でもさぁ、やっぱお金も大事だよ。あ~あ、人生やっちゃったね」

「やっちゃったね」

 その言葉には、「君は人生の選択を間違えたね」という要素がふんだんに盛り込まれていた。