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ただの「モテ」ではなく「めちゃモテ」…2000年代半ばに起こった空前の“エビちゃん”ブーム、『CanCam』はなぜ“赤文字系雑誌”で一人勝ちできたのか

『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか』より #2

2022/01/09
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JJ 的な価値観の変化

 2000年代半ばはちょうど私が大学生から大学院生になる頃とリンクするため、神奈川県の辺境にある私の通っていた大学でも構内には、淡い色のアンサンブルや、デニムジャケットに白い膝丈ワンピースといったエビちゃんOLファッションの学生が散見された。

 1970年代後半から80年代前半生まれのエビちゃんOL・女子大生たちは、母親の多くが専業主婦であり、自分は専業主婦をゴールとしない世代である。幼少期にバブルは崩壊し、長く不景気とされた時代を少女として過ごし、また女性たちの学歴志向やキャリア志向が自明なこととされた彼女たちの世代に、JJ 的な結婚に絶大な信頼を寄せる価値観は徐々に薄れていた。

 かといって、社会全体にフェミニズムやキャリア女性が浸透していたわけではなく、一方では根強く男性から愛されることこそ女性の幸せという旧来的な幸福感が居座る。むしろフェミニズムが積極的に叫ばれた80年代への一時的な反動として、女らしさをしきりに取り戻そうとする現象は日本に限らず各国で見られた。バックラッシュやポストフェミニズムなどと呼ばれたその現象は、ある意味では過度に男女平等や正しさを突き詰めた結果、女性としての欲望が蔑ないがしろにされていると感じた女性たちの正直な気分に下支えされていたとも考えられる。しかしそこで、無邪気に男性への経済的依存を100にできるほど時代に余裕はない。

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 むしろ目下、雇用環境は悪化、リーマンショックと年越し派遣村の2008年の再来かと思うほど日本社会は追い詰められている。素敵な男性に選ばれることを一義的な目的として努力したところで、自分の望む生活水準を期待できるほど高収入な男性がその辺に転がってはいない。かといって十分に学歴や知識そのものを身につけた女性たちの目に、清貧な専業主婦は全く輝かしくは映らない。「素敵な男性と結婚して幸せになる」は一方では叶わぬ夢として、もう一方では魅力のない旧来型価値観として、いずれにせよリアリティも実現可能性も薄れていった。女性らしさや女としてのプライドを損なわずに時代に適応する、いわば保守派女子の一つの解として導き出されたのが、お嬢様による結婚戦略というJJの価値観より些いささか軽薄な、「めちゃモテ」ブームであった。恋愛やファッションで女らしさを意識して強者となりつつ、その先にある社長なり社長夫人なりの選択は保留とする。