相撲の力士のような体格をしているマイケルが瞳に涙を浮かべて語った時、日本社会で生きるフィリピン人の過酷な状況を私は突き付けられた。
また、ジョンは違法薬物の売買を食い扶持にしていた。都内のフィリピン人のネットワークを駆使し、覚醒罪、大麻、MDMAなどを仕入れて、フィリピン人相手に捌いているという。明らかな違法行為をするリスクを、ジョンは分かっているのだろうか。
「裏切れば、フィリピンにいる家族も殺される」
「警察は大丈夫。仕入れるのも売るのもフィリピン人。信頼できるフィリピン人だけ。フィリピン人のネットワーク凄い。裏切れば、日本で暮らせなくなるし、フィリピンにいる家族も殺される。だから安心できる。ヤクザには金を払ってる。そんなに多くの量じゃないし平気。うまくやってる」
違法薬物売買をするジョンのことを、多くの日本人が不愉快に感じて日本から出ていって欲しいと思うはずだ。しかし、ジョンと長く接していると、そう単純に彼の存在を否定できない部分も見えてきた。なぜかというとジョンの人生もマイケルと同じく不幸なものであったからだ。
「18歳の時に母親と日本に来た。フィリピンには父親もいるけど、病気で頭がおかしくなった。金がなくて困った母親は、フィリピンのブローカーを頼ってヤクザの日本人と結婚した。よく分からないヤクザの日本人のことを、母親は俺にオジさんって言わないで、お父さんって言えって。困ったのを覚えてる。子どもながらにお金の関係って、ちゃんと分かってた。
新しいお父さんは、美味しいご飯食べさせてくれて、好きな行きたい場所に連れていってくれた。けど、日本語分からないから家の外には居場所がなかった。18歳だと学生でもない。仕事をしなきゃで、頑張って面接をしても、どこも受からなかった。やっと働けたのが新聞配達の仕事。でも、やり方を覚えられなかったり、フィリピン人だから馬鹿にされたりで無理だった。悪い仕事するしかなかった。
ドラッグ売るのはお父さん(ヤクザの義父)に教わった。最近、お父さんは病気で寝たきり。そろそろ死んじゃうと思う。今は俺も日本語できる。昼間は友達がやってるタピオカの店で働いている。セカンドワーク(副業)でドラッグ売ってる。自分のバーを開くため、金を貯めてる。バーを始めたらドラッグの仕事はやめる」
日本社会で真っ当に働くことができずに、非合法の仕事に手を出したジョン。彼は他に金を稼ぐ手段を持ちえなかった。