私は、それはペレがミキのことを好きではないからだと言いかけたがやめた。金儲けの手段の1つにされている残酷な現実を突きつければ、ミキの精神状態が持たないだろう。それに、もう1つ心配事があった。
ミキが違法売春以外に強いられた“犯罪行為”
「シャブ(覚醒剤)はもうやってない?」
ミキは頷いた。腕を見せてくるが注射の痕はなかった。しかし、私はミキが嘘を付いているように感じた。覚醒剤は炙って吸引をすることもできる。
「本当に?」
再びミキは頷いた。これ以上は聞いても無理だろう。
「でも、クリスタル(覚醒剤)を売らされたりはしている」
「何だよそれ。完全に使われてるじゃん。違法薬物の使用も駄目だけど、売人だと営利になるから実刑になるよ。刑務所に入ることになる」
「そういうのよく分かんないの」
ミキは考えたくもないのだろう。だが、どのような事情であれ、リスキーな犯罪行為をしていることに他ならない。私はボロボロになったミキの姿を見て、放っておくことができなくなってしまった。
「とりあえず、親御さんに連絡して帰った方がいい。ペレはミキの実家の場所とか知ってる?」
「知ってるよ」
「じゃあ、何かあったら警察に言うんだ。ペレとは会っちゃ駄目だ」
「でも、ミキがいなくなるとペレが大変なの。ボスに金借りてるみたいだし、ヤクザから守ってもらってる」
生き地獄のような目に遭わされたにもかかわらず、ペレのことを心配しているミキ。どこまで都合の良い女なのだ。再び、ミキの携帯がしつこく鳴っている。
少女の涙「もう辞めたい。辛くて……」
「ペレに電話するから携帯貸して」
ミキは首を横に振る。そして、泣きじゃくり出した。
「お願いだから、やめて……」
これでは無理だ。私は諦めるしかなかった。
「じゃあ、自分で電話するんだ。もう、仕事はしないって。早めに伝えた方がいい。その方がボスに迷惑かからないし、ペレも追い込まれずに済む」
ミキは泣くのをやめ、決心した顔になった。カバンの中をあさって携帯を取り出した。ペレからの電話に出る。
「ごめん。出ないで。ミキだよ。今日、仕事休んだ。もう辞めたい。辛くて……」
ミキの携帯はスピーカーになっていないが、怒鳴り声が聞こえてくる。聞き取れないが、ペレがブチ切れていることだけは間違いないようだ。