「そんなこと言わないで……」
また、ミキは泣き出してしまった。
「ペレがどうでもいいわけじゃないって。好きだよ」
これではペレに説得されてしまうのではないか。私はもう強行手段しかないと考えた。ミキの携帯を素早く取り上げる。
「こんにちは」
「やめて!」
ミキが慌てて止めに入るが振り払う。無駄なトラブルに巻き込まれるのは本当に嫌だが、取材をしていて情が移ってしまったようだ。
少女が選んだ“地獄”「ペレごめんね」
「ちょっと、ミキさんに酷すぎることしてませんか?」
「あ、誰? 用事ないんだけど。ミキに代わってくれる?」
さっきまでミキに怒鳴っていたのとは違い、とても冷静な対応だ。普通、彼女と電話で話していて、違う男が出たら激怒するのが当たり前だ。
「先日、パチンコ店で会いましたよね。もう、ミキさんは仕事を辞めたいようですよ」
「あー。ミキの男? ミキの何を知ってる? 俺たちに金を借りているし、面倒見ているホストに病気をうつしたこともある。前働いてたスナックでもルール破った。あなたが立て替えられるのか?」
ペレは私に対して恐喝にならない体裁で脅してくる。どこで習ったのかは知らないが、暴力団の使う典型的な手法だ。裏社会の住人は自分にとって金になる人間を、安易に手放すことはしない。金のなる実を奪うには、それなりの対価の支払いを要求されることがほとんどだ。
簡単に言えば、私が求められているのはミキを解放する条件として、ペレに金を払えということだ。だが私はミキのために金を払う意気込みはない。
「いくら必要ですか?」
私は具体的な金銭の額を提示させ、恐喝で逮捕させてやろうと罠を仕掛けた。
「あなたが金を払う必要はない。関わらない方が良いよ。俺たちもボランティアみたいな気持ちだよ」
すると、ミキから強引に電話を奪われた。ビンタをされる。
「やめてよ馬鹿! ペレごめんね」
必死にペレに言い訳をするミキ。私はその哀れなミキの姿を見て、自分の気持ちが急激に冷めていくのを感じた。