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ノーパソに現地のLANケーブルをつなげばOK

「はじめたのは2020年の5月からですね。無人駅で働いているのは支社の社員、つまり間接部門の社員です。なので、あくまでも駅で働く駅員ではないんです。ノートパソコンを持って行ってもらい、無人駅に残っていたLANケーブルにつなげばもうそれだけでOK。あとは普通に仕事をしてもらえばいい、ということですね」(桑木さん)

 無人駅でテレワークを行うためにはLANケーブルや電話などの設備が整っていることが必須条件だ。中には駅舎を建て替えてしまって待合室ていどの建物しかなく、内部で社員が仕事をすることができないような無人駅もある。また、駅舎が残っていても地元自治体に譲渡している駅もある。そうした駅ではとうぜんテレワークをすることはできない。

 その結果、岡山支社管内の13駅が“テレワーク”の執務場所となる無人駅になったという。

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「範囲は山陽本線を中心に宇野線、吉備線、伯備線、津山線と結構広いんです。社員が自宅から近い駅で仕事をしてもらうスタイル。基本的に希望する社員が希望する駅でテレワークできるようにしていますね」(桑木さん)

 希望する、といってもそれまで使われていなかった駅舎の中でひとりぼっちのテレワーク。希望者はあまりいないんじゃないですかね……。

「いえいえ、実はそれが結構人気なんです。支社に出社すると上司の目もあるし、自宅にいても家族がいるからひとりになりたいというのもあるんでしょう(笑)。

 

 それに、支社で働いている間接部門の社員であっても、みんな根っこは鉄道員です。駅にいると、列車が来たこともわかるしお客さまが通るのもわかる。何かあればお客さま対応をすることもあるんです。改めて自分が鉄道会社の人間であることを再認識することもできるので、その点でも無人駅でのテレワークは多くの社員が気に入ってくれています」(桑木さん)

テレワーク無人駅の“思わぬ副産物”

 テレワークをする社員は自宅から近い無人駅を選び、そこに通勤、通常と同じように朝9時から夕方18時頃まで働いて、そのまま帰っていく。

 そして最初は分散勤務を目的にスタートした無人駅でのテレワーク、思わぬ副産物もあった。

 社員が無人駅でテレワークをしていることは、その駅を管轄している駅にも連絡を入れている。つまり、駅側も「いつもは駅員不在の駅に今日は社員がいる」ということを把握しているのだ。そこで、急を要する事態が発生した場合には、テレワーク中の社員が対応することも可能になる。

 

 もちろん、テレワーク中の駅員ではなくあくまでも間接部門の社員であり、対応できる範囲には限りがある。しかし、急病人の対応やきっぷの購入に戸惑っている乗客の案内といったものであれば誰でも対応できるし、駅近くの踏切の遮断桿が折れたといったトラブルでも応急措置の訓練を受けた社員なら迅速に対応できるのだ。

「管理駅から社員を向かわせるとどうしても時間がかかってしまいます。列車ではなくクルマで移動する場合も多いのですが、渋滞に巻き込まれてしまうといつになっても着かないことも。そうした場合にも、無人駅にテレワーク中の社員がいることで少しでも早い対応が可能になる。駅からも『頼りになる』というお話をいただいていますね」(桑木さん)