「あ、学生さんが帰ってきた時間帯だな」意外と聞こえる“駅の音”
無人駅に出社したら、だいたいまずは駅を見回ってゴミがあれば掃除することもあるという。
「基本的にはずっとパソコンに向き合って仕事をしていますが、気分転換もかねてちょっと駅の中を歩いたり。間接部門で働いていると、お客さまと直接接する機会がなかなかないですからね。改めてお客さまに支えられているんだなと実感することができたのはほんとうに良かったです」(掛さん)
「駅舎の中にいても、外の音が結構よく聞こえるんです。学生さんが帰ってきた時間帯だな、とかそういうのもよくわかる。駅という現場で働いているわけですから、やっぱり緊張感もあって身が引き締まる。仕事自体も何の問題もなくできています。いいシステムだと思います」(門田さん)
ふたりとも、無人駅でのテレワークには満足しているようだ。
テレワーク無人駅の投資は「正真正銘の“ゼロ”」
ちなみに、無人駅の駅舎の中は有人駅のままに残されているところがほとんど。だから無人駅でのテレワークをするにあたっての投資は正真正銘の“ゼロ”だ。当初は分散勤務が目的だったが、今では分散勤務以上に“駅に社員がいる”ということのメリットが大きいため、コロナ禍が収束しても継続していく予定だという。
「必ず社員がいるわけではないのでお客さまに周知することはできないのですが、それでも何かあったときに対応できる人が無人駅にいるということは駅の業務にとっても大きいメリットになっています」(桑木さん)
“無人駅に人がいる”という想像以上の安心感
もともと無人駅といっても、本当に終日誰も来ないわけではない。点検・見回りのスタッフが必ず足を運ぶし、自動券売機のお金の管理も必要だ。車椅子の乗客が来ればそのサポートもある。
そうした業務の多くは、社内の訓練を受けた駅員でなければできないのが原則で、テレワーク中の社員には難しい。しかし、それでも“無人駅に人がいる”という安心感は想像以上のものがあるようだ。
「ウチもプレスリリースなどで公表しているわけではないので他社の事情はわかりませんが、無人駅でのテレワークは全国初じゃないかと思いますよ。最初はコロナ対策の分散勤務。それが思った以上の成果を上げている。当社内でも岡山支社が初めてで、他のエリアについては岡山支社の状況を踏まえてという段階です」(JR西日本の広報氏)
無人駅に人がいる——。これだけ聞くとなんだかホラーみたいなお話だ。が、実際に無人駅にいるのはれっきとした鉄道会社の社員さん、つまり鉄道員だ。だから夕暮れ時の無人駅の駅舎に明かりがついていても、それはホラーではなくむしろ“安心”。増加傾向にあるという無人駅だが、あんがいこうした活用方法がいちばんいいのかもしれない。
写真=鼠入昌史
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