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 当時の小栗には、トップをとりたいという気持ちはさらさらなく、周囲に対して闘争心をあらわにすることもなかった。しかし、蜷川に言わせるとそれは、《大事に育てられた家の子供らしい羞恥心の強さ》の表れということになる(※2)。

蜷川幸雄 ©文藝春秋

 のちに蜷川は当時を振り返って、《『ハムレット』のころの小栗は、自分を認めていないやつらに対して、深く傷ついていた。あたたかい家庭に育った都会人だから、それが表立って牙を剝くような形では出ずに、屈折した形で表れるんだね。常に斜に構えていて、小生意気。でも舞台では、その都会的な雰囲気が、とてもファッショナブルで、かっこいい》と語っている(※3)。

 そんな小栗に、トップになって周囲を引っ張っていけるだけの素質を見抜いた蜷川は、その自覚を持つよう促してきた。何かにつけて《小栗はかっこいい。ロミオもハムレットだってできる。おまえは、こんなところにいる場合じゃない》と言われるうち(※4)、本人もだんだん一番になりたいと思うようになっていく。

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2005年、ドラマ『花より男子』に出演 

「役はオーディションでつかみ取りたい」

 小栗はドラマ『花より男子』で世間的にもブレイクを果たした翌年、2006年にはシェイクスピア劇『間違いの喜劇』で初めて主演に抜擢された。同じ年にシェイクスピアの本場・イギリスで上演された『タイタス・アンドロニカス』では、主人公・アンドロニカス(ローマ帝国の名将)の仇敵であるエアロンを演じる。エアロンは、その2年前に同作を観たとき、やってみたいと蜷川に自ら申し出ていた役だった。念願かなって射止めた役だけに演技には熱が入り、地元紙の劇評では《ブロンドの小栗旬が演じる両性的なエアロンは、気軽な悪辣さを放つゆえに絶対的にセンセーショナル》であると絶賛された(※5)。