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――確かに「認知症になってしまうことの恐怖感」みたいなものはあります。

 そうなんですよ。ただ、インタビューをしていると、それが誤った認識だとわかってきました。最初にインタビューしたのは、39歳のときに若年性アルツハイマー型認知症と診断された丹野智文さんなのですが、彼はもともとトヨタの仙台の販売会社でトップセールスマンとして働いていたんです。お会いするとセールスマンだけあって話も上手いし爽やかだし、想像している“認知症患者”とは大きなギャップがあったんですね。

「最初、顔がわからなくなったんだよね」

――認知症患者というと、ふさぎこんでいて会話ができなそう、というイメージもありますよね。丹野さんはどんな症状をお持ちだったのですか?

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 丹野さんの特徴的な症状は「人の顔がわからなくなる」というものです。長年のお客さんがディーラーに来てくれてたので、受付に行ったところ、何人か並んでいる中のどの人が自分のお客さんか全くわからなかった、と。そのときは受付の人が教えてくれて、しばらく誤魔化しながら営業をやっていたんですが、そのうち自分の会社の社長さんの顔もよくわからなくなってきたそうで。

 

「顔がわからないって、どういうことですか。忘れたということじゃなく?」と聞くとこうおっしゃるんです。

「僕も最初は顔忘れちゃったのかなと思って、お客さんの写真のリストを作ってみたんです。でも、そのリストで〇〇さんという写真があっても、目の前の人とどうやっても同じ人には見えないんだよね」

「同じ女優さんを見ても、見るたびに違う顔に見える」

――同じ人に見えないというと?

 そう疑問に思いますよね。いろいろ話を聞いてみると、例えばこんなことも話していました。

「テレビドラマを観ても全然楽しくない。なぜかというと、主人公の女優さんは何回も出てくるじゃないですか。でも、フレームアウトしてまた出てきたときには全然違う女優に見える。だから話が全く成立しない」

 ある時は、街中で、同級生の女の子だと思って話しかけたら、全然知らない人で、ナンパに間違われたというようなエピソードも教えてくれました。

 そういう話を聞いていくうちに、人は顔を2次元的なヴィジュアルで認識していないことがだんだんわかってました。目の前の3次元の人と2次元の写真が結びつかないから、写真では照合できないんですよね。

 また、人の顔の認識と記憶は密接に結びついていることもわかってきました。人は髪型が変わったり、容貌が変わったりしても、自分の記憶のデータベースと相手の顔の特徴的な一部を照合させて、顔を認識しています。でも認知機能の障害で、記憶のデータベースと目の前の視覚の照合に誤作動が生じてしまう。その結果、テレビに登場する同じ女優さんを見ても、見るたびに違う顔に見えたりなんてことが起きるんですよね。