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人の顔がわからなくなるのは《顔無し族の村》に迷い込んだから “異世界RPG風”の「認知症本」が売れている本当の理由

人の顔がわからなくなるのは《顔無し族の村》に迷い込んだから “異世界RPG風”の「認知症本」が売れている本当の理由

『認知症世界の歩き方』著者インタビュー#1

note

「私は認知症です」と言い出せない社会環境

――確かにそうした認知の歪みがわかってれば、認知症の方と周囲のトラブルも減りそうですね。「認知症になってから、キレやすくなった、感情の起伏が激しくなった、性格が変わった」と言われることもありますが、周囲の無理解に苛立ってしまうところもあるんでしょうか。

 それもありますが、例えば物盗られ妄想みたいなのがありますよね。「財布の中に1万円入れていたはずなのになくなった」みたいなことは、本人の中では「財布にあったことは明確に覚えているけど、使った記憶はなくなっている」ことから、誰かが盗ったんじゃないか、あなたが盗ったんだろうとなるんですね。もちろん言われたほうは「ふざけるな」と思う。でも、認知症の方の世界の中ではこういうことが起きるんだと知っていたら、上手く対処できると思うんですよ。

――認知症があっても、ご本人がそれを認めないケースもあります。そういった方はどうなんでしょう。

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 本人が認知症であることを認めてはいなくとも、自分の認知機能に不具合が起きていることには、基本的にはほとんどの方が気づいているようです。なぜなら、生活の中で今までできていたことがどんどんできなくなり、トラブルが起きているわけですから。

 

 ただし、それを言い出せない社会環境が問題なんですよね。自分が認知症だと認めると特殊扱いを受け、自分がこれまでやっていたことを取り上げられてしまうのではないかという恐怖がある。だから「本人が認めない」というよりも、「認めるわけにはいかない」ということなんだと思います。早い段階で認知症による困難さを本人が認め、周りが適切なサポート環境を整えていければ、解決することはたくさんあるはずです。

認知の歪みは多かれ少なかれ健常者にもある

――本書には「トイレットペーパーを買ったのに忘れてしまってまた買う」とか、「人の名前や顔を忘れる」といった症状も紹介されています。こうして言われると、私にも理解できるものも多くて……。

 僕なんかは小さい頃から発達障害傾向が非常に強かったので、自分の体験と近いなとしか感じられないですよね。だから、認知症の方のインタビューを聞いていても、「わかるわかる」っていう感覚でしかない。多くの人に必要なのは想像力だと思います。どんなことが認知症のある人の頭の中で起こっているかがわかれば、もう一歩深く理解できるようになると思うんです。