昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

人の顔がわからなくなるのは《顔無し族の村》に迷い込んだから “異世界RPG風”の「認知症本」が売れている本当の理由

『認知症世界の歩き方』著者インタビュー#1

 認知症のある人たち100人へのインタビューを通し、本人の視点から認知症の世界がどのように見えるかを「異世界」を旅するゲーム感覚で紹介した筧裕介氏の『認知症世界の歩き方』(ライツ社)。現在、9万部超を売り上げる大ヒットとなっている(12月初旬現在)。

 本書では認知症の特徴的な症状が、視界も記憶も同時にかき消す深い霧「ホワイトアウト渓谷」、メニュー名も料理のジャンルもない名店「創作ダイニングやばゐ亭」、時計の針が一定のリズムでは刻まれない「トキシラズ宮殿」などと題されて解説されている。

 “異世界転生もの”のノリで、認知症ゆえの困難をなぞることができるのだ。

 いったいなぜこういった本を? 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任教授で、ソーシャルデザインファーム「issue+design」代表の筧裕介氏にインタビューした。

◆◆◆

デザイナーがなぜ認知症の本を?

――筧さんの本業はデザイナーですよね? なぜ認知症に関する本を執筆されたのですか?

筧裕介氏(以下 筧) きっかけは、堀田聰子先生(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授)などが中心となって、認知症の方が暮らしやすい社会をつくろうという活動の「認知症未来共創ハブ」の立ち上げに3年前、誘っていただいたことでした。現状に対して問題意識を持っている医療・介護関連の方々と一緒に活動していく中で、「ご本人の声を社会に伝えていく必要がある」ということで「認知症当事者ナレッジライブラリ―」として当事者100人にインタビューをすることになったんです。

※写真はイメージです ©iStock.com

――インタビューはどのように進めていったのですか。

 シンプルに「どういうことを今後もやり続けたいですか」「生活の中で困っていること、やりにくくなったことは何ですか」みたいなことを聞いていきました。

想像している“認知症患者”とのギャップ

――認知症の本というと、症状や進行を遅らせるための工夫、家族の接し方などを書くものがほとんどかと思います。当事者目線で語られる本書のようなものは少ないですよね。

筧 そもそも認知症は、「なってしまうと、何もできなくなる」みたいな悲愴感が漂う病気として語られがちなんですよね。しかも実際に予防できるという確かなエビデンスはないのに、「予防」ばかり強調されています。ただ、認知症の方々にインタビューすると、決して「何もできなくなる」なんてことはないんですよ。だからまず、認知症に関する正しい理解が広がることが必要だなと。