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「見えないと忘れる」視覚と記憶の不思議な関係

――トイレットペーパーを何度も買ってきてしまうことと、どう関係があるのでしょう?

 その方は実際に見えているものは記憶に残るけど、視界が遮断されるとそこにあるものが想像できなくなり、記憶から消えてしまうんだということが、お話ししている中でわかってきました。だから、トイレの中にトイレットペーパーを置いて扉を閉めると中にいくつトイレットペーパーがあるのかわからないし、タンスに服をしまってしまうと服の存在がわからなくなってしまうんです。

 その方は最近、自宅でトイレに失敗することもあったそうなんです。なぜかというと、自宅のトイレには当然「トイレ」とは書いていないじゃないですか。それで夜になると、「そこにドアがあるけど、その先にトイレがあるとはとても思えなくて、ドアを開けられない」と言うんですよね。

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認知症は“対策”を立てられる病

――原因は同じなんですね。

 そう。トイレットペーパー大量買いも、タンスに服がしまえない問題も、トイレの失敗も、すべて同じ原因だった。視覚と記憶が密接に結びついていて、それがトラブルになっていたと。そんな現象を体験できる場所を「ホワイトアウト渓谷」と名付けました。

――本書の中では、認知症になることを「旅に出る」と表現されていますが、「ホワイトアウト渓谷」などへ安全に行くには相応の準備が必要そうですね。“旅支度”についてもかなり具体的に書かれています。

 認知症は正しく理解して準備をすれば、困りごとは大きく減らせるんです。

 だから保健師さんや介護関係の職員は「環境にちゃんとアプローチしなさい」と言われるそうなのですが、具体的にどうすればいいかは誰も何も教えてくれない。もちろん、施設などの介護職は、ご飯を食べる、お風呂に入る、寝るといった生活の基本的なところを支援するために、本人の身体や行動にアプローチするのですが、それだけではなかなか解決しない問題があります。